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紙面掲載した書評をご紹介 「図書新聞」の書評コーナー

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「図書新聞」の紙面で紹介した書評や、対談記事をご紹介します。【週1回更新】
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図書新聞3139号(12月21日号)で掲載した毎年恒例の特集 「2013下半期 読書アンケート」 で、各方面の専門家の方々が選んだ2013年下半期の注目書籍をe−honでも全点ご紹介!ぜひチェックしてみてください。

◆ 3160号(5月24日発売号掲載)

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水煙への誘い

――『金井美恵子エッセイ・コレクション』(全四巻・平凡社)を読む
評者:丹生谷貴志(文化論)

「だけど、どうして水道管を壊すのでしょう?」
「あたりまえじゃないですか……」
 ――金井美恵子『エオンタ』

 この全四巻の「本」は不思議な軽さとしてそこにあり、読者は薄荷の匂いのする水煙に包まれたかのようにそれを呼吸することになるのだが、「ちょっと意地悪な軽妙さ」などと言われもしよう場合ですらこの透明な軽さには不吉な光源の不意の肌寒さが感じられ、それは例えば第三巻に収められた島尾敏雄を巡る希有の純度の文辺りで光源の場所を最も裸に近く示しているとも見え、それを端的に言えば要するに或る「狂気」なのだが、これでは何を言っていることにもなるまい。

 ……手に弾け散る流体が例えば「水」という発声と文字で表されることを認識するという経験は如何なるものであるのか。私たち自身幼時のいつであるかそのことを経験したはずだがあらかたそれを記憶していない。たぶんこの記憶は封鎖されねばならないのだ。…続きを読む

焼身抗議した全泰壹の遺志を継いだオモニはかく生きた

――韓国現代史を創造してきたのは貧しい労働者たちの不屈の闘い
評者:黄英治(ファン・ヨンチ 作家)

 〈日韓民衆連帯〉という言葉が生まれて、社会的な運動が展開されるのは、一九七〇年代の中盤からだ。それまでは朝鮮民主主義人民共和国との〈日朝友好〉運動が主流で、軍事独裁政権下の韓国民衆の存在と闘いは、社会運動圏の視野の外にあったといえよう。この〈日韓民衆連帯〉運動の原点には青年労働者・全泰壹がおり、彼のオモニ・李小仙がいた。

 全泰壹は一九七〇年十一月十三日、被服作業所が密集するソウル平和市場の劣悪な労働環境の改善を要求し、「われわれは機械ではない」「勤労基準法を守れ」と叫んで、全身に灯油をかぶり焼身抗議した。彼が最も胸を痛めたのは、縫製工場の補助労働をする十二、三歳の、いつも腹を空かしているシタ(日本語の「下」に由来することに注意)たちの境遇だった。病院に駆けつけたオモニに息子は、「学生たちと労働者たちが力を合わせて闘わなくちゃ」「力のない労働者が自分たちの権利を取り戻せるように、母さんが道を作ってくれなくっちゃ……」と訴える。…続きを読む

絶えず現在という視線を手放さない述懐 著者の思い描く「精神のリレー」とは

評者:久保 隆(評論家)

 書名の副題に「精神のリレー」とある。この文字を見て、わたしが真っ先にイメージしたのは、埴谷雄高の講演「精神のリレーについて」(75.5)だった。この講演は『死霊』全五章刊行を記念することと、高橋和巳の追悼(71.5.3逝去)も兼ねて行われた講演会でのものである。埴谷はここで、「より深く考えること」と刻まれたバトンがリレーされることを希望して言葉を閉じている。リレーといえば、人と人との関係性(共同性)をともなった思考や体験の継承ということだけでなく、自分自身が思考や体験をひとつの連続した繋がりとしてかたちづくっていくことも「精神のリレー」と呼んでいいのではないだろうか。「60年代追憶」、あるいは「60年代再考」とも命名される本書は、著者の思考や体験を関係性のなかにあって、ひとつの連続した繋がりとして振り返りながら、絶えず現在という視線を手放さずに述懐したものだが、そこには緩い回顧譚のようなものはない。緊密に、著者自身の思考の織りを見せてくれているのだ。 …続きを読む