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紙面掲載した書評をご紹介 「図書新聞」の書評コーナー

「反差別運動」とは何か?

――自分に「やらない」言い訳ばかり与えていたある右翼活動家の足跡
評者:清原悠(社会学)

 2013年の流行語トップ10に「ヘイトスピーチ」が選ばれた。ヘイトスピーチとは、「民族」などの個人では変更が難しい「属性」を対象にして差別的な発言をすることである。実際に、在日韓国・朝鮮人(在日コリアン)が日本人よりも優遇されているという被害妄想にかられた人々が、新大久保などのコリアンタウンで「良い韓国人も悪い韓国人もどちらも殺せ」といったスピーチをしてきた。その代表例に、2007年に結成された「在日特権を許さない市民の会」(以下、在特会)が挙げられる。

 本書はこのヘイトスピーチに対抗する反差別運動が2013年2月にできるまで、そしてその後の半年間の動きを、ある「右翼」の元ホストである山口祐二郎氏の自身の足跡から明らかにしたものだ。著者いわく「これは、俺が反差別運動を『やらなかった』記録と、そして『やってきた』記録」なのである。だからこそ、反差別運動に対して全く知識がない読者にも一読をお勧めしたい。本書の最初についている年表や、主な登場人物相関図が良い道先案内になってくれるはずだ。

 本書は4章構成から出来ており、第一章では2007年に誕生した在特会と、既存の右翼との確執が明らかにされる。この章では、著者の友人であり、同じく右翼活動家であった金友隆幸氏が、反米右翼から在特会などの排外運動へ転向していく経緯が一つの軸となっている。街頭演説をやっても誰も聞いてくれない、という手ごたえのなさと焦りが、金友を過激なヘイトスピーチへと駆り立てたと著者は読み解いている。金友を止めるために「朝鮮人だからという理由で(引用者注‥日本から)出ていけなんて理解できないな」と問いかけた著者に対し、金友は「それは分かってるよ。でもね、右翼の活動なんてはっきり言って終ってる。だが、在特会は違う。いかにも右翼の活動といった感じじゃない普通の市民が日の丸を持ってデモしているんだ。凄いことじゃないか」と答えるのである。

 第二章は、2011年の前後における在特会の動きと、それを取り巻く賛成勢力―反対勢力とのぶつかり合いが記されている。ここで目を引くのは、登場人物・団体の多彩さであろう。在特会を止めようとする既存右翼、在特会の活動メンバーと繋がりを持つ宗教団体や政治勢力、そして最も早くに反差別運動をたった一人で行なった在日コリアンの青年などが本章で取り上げられている。

 第三章では、反差別運動の立ち上がりと活動の展開が紹介されている。差別を非暴力直接行動で阻止すべく、不良色を前面に出した「レイシストをしばき隊」に参加した著者、そしてそのような「しばき隊」とは全く異なる性格の反差別行動「プラカード隊」の登場である。反差別運動の多彩さを知りたい読者には必見である。反差別運動の担い手は「左翼」だけでなく「右翼」、更にはイデオロギー的にはどちらでもない「普通」の人々も多数参加している。実際、反差別運動が結成される発端は、韓国のポップカルチャーが好きな、高校生も含む日本の若者たち(「Kポペン」と呼ばれている)が在特会のデモに対してネット上で批判の声を上げたことにあった。

 第四章は、反差別運動の盛り上がりの結果達成できたことと、それでも実現できなかったことが明らかにされている。元極道のメンバーが率いる反差別組織「男組」の結成、他方で外国人排外デモに異議を唱える日弁連元会長の宇都宮健児氏を筆頭にした152名の弁護士たちの行動など、反差別運動が広がっていく。しかし、そこにある思いは一つであっただろう。それはベンツに乗ってカウンターをしかける伊藤大介氏の「当たり前に責任を果たす大人が増えれば、あんな醜悪な差別デモはなくなるんだ」という発言に見られる。

 差別に立ち向かうのは怖い、ゴリゴリの右翼活動家ですらそうだったのだ。しかし、その著者を勇気づけたのがこの発言だった。だからこそ、著者は、差別に怯える人々に向かって本書を読んで欲しいと願っているのではないだろうか。(社会学)

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