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(平成16年5/30毎日新聞掲載) | |||||||||
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子どもたちの「読書離れ」が指摘されて久しい。だがそんな風潮に変化の兆しも見えている。毎日新聞と全国学校図書館協議会が昨年行った「第49回学校読書調査」によると、1カ月間に読んだ本(教科書・漫画などを除く)の冊数は、小学生(4年生以上)が前年より0・5冊増えて8冊と過去最高を記録、中学生も2・8冊で0・3冊増えている。背景にあるのが、16年前、千葉県船橋市の船橋学園女子高校(現・東葉 高校)に始まった「朝の読書」運動だ。授業が始まる前の朝の10分間、児童・生徒と教師が本を読むもので、全国的な広がりを見せてきた。この「朝の読書」の経緯と課題などについて、発案し実践した大塚笑子東葉高校教諭と、読書家として知られる俳優の児玉清さんが対談した。 | |||||||||
大塚 1988年、船橋学園女子高校にいらっしゃった林公先生が提唱されたんです。当時は学校が荒れていて、読書で生徒の気持ちを和らげることができるのでは、ということでした。校内には反対意見もありましたけれど、私はそれ以前から、本をほとんど読まない生徒たちに「読み聞かせ」をしてみたところ、耳を傾けて、感動していたこともあって、やってみようと思いました。 児玉 どのような反対意見ですか。 大塚 「読書は強制されてやるものではない」「荒れた生徒たちが本を読むわけがない」「画一的だ」といった声がありましたね。 −−始業前の10分間 好きな本を読む 児玉 何を読むかは、生徒が自由に選べるようにしていますね。それでも「画一的」ですか。 大塚 朝の読書運動は、本を読む機会を提供するのであって、「この本を読みなさい」とは言いません。成績をつける対象にもしません。難しい本がよくて優しい本はよくない、という指導もだめですね。生徒が自分でいい、と思った本でないと続きませんから。ただ漫画と雑誌類は家でも読んでいるので、対象外としています。 児玉 効果はありましたか。 大塚 文章を読むことに慣れて、たとえば、試験問題を読むのが早くなりました。読解力も高まって、クラス全体の成績が上がりましたね。それと、感情にまかせた衝動的な行動がなくなっていったんです。読書に集中できない生徒もいますが、それでも「読んでるね」「すごいね」と声を掛けるだけでも効果はあります。 児玉 他の実施校でも「生徒が落ち着いた」「授業中の私語が減った」などという声があると聞きました。
児玉 そうした効果が立証されて、その後16年間で1万7000校にまで広がったわけですね。 大塚 教師の研修大会を開いてきたことなどで増えてきました。今は保護者の方から協議会の事務局に「朝の読書」についての問い合わせも増えてきています。 児玉 うまく行かない場合はありますか。 大塚 重要なのは、学校側が本を用意することです。それもすぐ手に取れる場所に置くことです。教室や玄関、階段でもいいと思います。 児玉 軌道に乗るかどうか、教師の姿勢が影響しそうですね。 大塚 ええ。全国を回っていると「いまさら、生徒と一緒に本を読むのは恥ずかしい」なんていう教師もいましたけれど、始めるにしても、日ごろ生徒とうまくいかないような教師が「朝の読書やろう」と言っても、「何言ってんの」となっちゃうんですね。 −−読書習慣の定着 環境整備が重要 児玉 クイズ番組の司会をしているんですが、最近の解答者が弱いジャンルが「文学」なんです。夏目漱石や永井荷風、太宰治の3人はわりと覚えられていますが、そのほかとなるとあやしい。知識を得たり、登場人物に感情移入することで他者の立場に立つことを知ったり、本を読むことで得ることは多いのに。 大塚 でも、教師はプロですから、そんな状況でも何とかしようという気持ちが必要で、学校だからこそ、できることがあると思うんです。 児玉 本にもっとルビを、という意見があります。 大塚 同感です。読みやすさという点では大切ですね。出版社側には費用の関係があるでしょうけれど、できるだけルビは振ってほしいですね。読者を増やすという点でも、効果があるのではないでしょうか。 児玉 朝の読書を経験した生徒たちが親になったとき、効果が膨らんでいくといいですね。 大塚 私の学校は女子高ですが、将来母親になったとき、子どもに絵本を読んであげるようなお母さんになってほしいですね。 児玉 今後の目標を教えて下さい。 大塚 全国すべての学校に広めることですね。それと、最大の問題ですが、学校に本が不足しているので、増やしたいですね。予算の制約はありますが、学校だけでなく、自治体や地域の支援と協力を呼びかけていこうと考えています。 |
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