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(平成15年11/24読売新聞掲載)
全国の小・中・高校15000校で実施
「朝の読書」運動は東葉高校から飛び立った!
継続・成功の秘けつは−−−教師も生徒と一緒に読むこと
 授業が始まる前の10分間、生徒と教師の全員が本を読む「朝の読書」運動が全国の学校で広がりを見せている。16年前に千葉県の高校でスタートしたこの運動は今、実践校も1万5000校に達し、さまざまな教育効果を挙げ、児童書の人気も上がってきた。今回は、実際の読書の様子や提唱者の声などを聞くため、この運動の発祥校を訪ねてみた。
▲「朝の読書」で学校が変わったと話す青木克己校長(左)と大塚笑子教諭(右)
 千葉県船橋市の東葉高速鉄道「飯山満」(はさま)駅から徒歩5分、保護林が残る恵まれた自然環境の中を通り校門として使っている歴史的建造物「長屋門」をくぐると、一転してモダンで先進的なたたずまいの東葉高等学校が姿を見せる。この学校こそ、全国で1万5000の実践校を数える「朝の読書」運動の発祥の学校である。

興味のある本を自発的に選ぶ
 午前8時25分、チャイムの音とともに、校内全体に静寂の時が流れる。先生と生徒たちが思い思いに持参した単行本や文庫本、新書などを10分間、黙読し続ける。活字を追う真剣な目。個人個人の心の動きが伝わって来そうな感じだ。わずかの間だが、そこには豊かで穏やかな時間が流れている。時間になるとページは閉じられ、その日の始まりであるホームルームとなる。
 どんな本を読んでいるのだろう。3年5組の4人の生徒に聞いてみた。将来NGO(非政府団体)の活動に参加したいという甲斐由妃恵さんは、アフガニスタンの干ばつに挑む中村哲さんの著書「医者 井戸を掘る」。家族の大切さを実感したいという丸山夏穂さんが選んだのは、キャムロン・ライトの「エミリーへの手紙」、『ココアのように心がほっとします。ぜひお薦め!』と笑う。車いすで通学する三代川由実さんは、障害をバネにたくましく生きる乙武洋匡さんの「五体不満足」。さらに、ダイオキシン汚染や地球温暖化が心配という小泉玲子さんは環境問題の名著、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」。まさに4人4様、それぞれの興味や進路に沿った本選びをしている。
 『別に押し付けたわけではありません。でも、これらの本はどれも我々が、読んでほしいと思うすてきな本ばかり。子どもたちは、自発的に選んでいるのです。だからこそ身に付くのだと実感しました』と青木克己校長は力説する。

16年間の運動がもたらしたもの
 「朝の読書」運動は1988年、子どもたちの心の荒れ方を憂い、心の落ち着きを取り戻したうえで一日のスタートを切ろうと、当時、千葉県船橋市にあった私立船橋学園女子高等学校(現・東葉高等学校)で、同校に勤務していた林公・元教諭と、大塚笑子教諭の強い提唱と実践で始まった。
 『これを始める前までは、とにかく遅刻や欠席が多く、朝のホームルームも放りっぱなしにせざるをえない、ということさえありました。それが、読書の時間でガラッと変わったんです』。大塚教諭はスタート時のことを昨日のことのように話す。さらに驚いたのは、こうした運動は徐々に定着するものと思っていたのに、初日からピタッとできたこと。『これで先生方も自信がついたようです』。
 以来16年、初期の頃にいた高校生も今は主婦となり、『家事の合間に読書を続けている』とか『昔読んでいた本を、娘が夢中で読んでいる』という話を聞くようになり、『続けてきて本当に良かったと思います』と、大塚教諭は話す。

▲静寂の中で思い思いの本を黙読する3年5組の生徒たち
“自己教育”できる生徒を育てるために
 同学園の創立は1925(大正14)年だが、今日の東葉高等学校の教育の基礎を築いたのは、1983(昭和58)年、93歳の天寿を全うするまで理事長兼校長として活躍した故古賀米吉氏である。「朝の読書」運動も、大きくはこの古賀先生の教育思想である・個性の尊重・と第三の教育と名付けた・自己教育・の伝統の中で花開いたと言える。
 『古賀先生はいみじくも、学校とは・自分が自分を教育する・生徒を育てるところだと述べています。だとしたら、読書の力を培うことは、本校の第一の使命ということになり、「朝の読書」運動こそ、建学の精神に基づいた実践だったわけです』。青木校長は、この学校で新しい運動が起きたのには必然性があると言う。そして、成功の秘けつは『まず続けること、そして教師も一緒になって読むこと。生徒だけで読書させ、その時間を職員会議にあてる学校もあるようですが、これでは効果は望めません。「朝の読書」の4原則の一つ「みんなでやる」ことが重要なんです』と強調する。たしかに16年を経た東葉高校では、この9月から教師2人制を採用し、より細やかなケアを行っている。
 それでは、この運動で同高校の生徒たちがどのように変化したのか──。「遅刻が減り、授業にスムーズに入れるようになった」「本を読めない子が読めるようになった」「生活のスタイルが変わり落ち着きが出てきた」「他人への思いやりの気持ちが出てきた」など、予想を超える効果が現れた。

発祥校だからこそ原点に立ち返って
 千葉県の一高校で始まったささやかな運動は、その後、全国の小、中、高校に拡大していく。現在、同校の教鞭をとりながら、「朝の読書推進協議会」の理事長として運動普及に努めている大塚教諭も『16年経ち、これほど多くの学校に浸透するとは思いませんでした』と語り、青木校長も『児童や生徒たちの変化を求めるだけでなく、共に読書し生徒と教師との垣根がとれたことで、教師自身や学校全体の意識の変化にも大きく影響していると思います』と話している。さらに、『「朝の読書」運動の発祥校として、もう一度原点に立ち返り、「毎日やる」「みんなでやる」「好きな本でよい」「ただ読むだけ」の4原則を徹底していきたい』と強調した。