――皆さんおはようございます。
これから大滝村の村歌を放送します。
「駒鳥の声冴ゆるとき 霧わたる神秘の奥山に しゃくなげの花は岩間に咲き映ゆる ふるさとの土(略)」
では、今日も静かに朝の読書を始めましょう――
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
本校の朝は、村歌の歌声と「朝の読書」の呼びかけから始まる。
大滝中学校は秩父多摩甲斐国立公園内の急峻な山間部に約六百戸が点在する埼玉県大滝村の唯一のへき地中学校である。全校四十二名の生徒たちは明るく純朴である。
現在、埼玉県では「自然・人・本・家族・地域」の五つのふれあいによる体験活動を通して、子どもたちの豊かな心を育み、学校・家庭・地域社会が一体となって心の教育を推進する「彩の国・五つのふれあい県民運動」を展開している。
私はこの四月(平成十三年)に校長として着任した。学校経営全体を見渡した時、本校におけるさまざまな優れた教育活動に心打たれると同時に、活動の中に「本とのふれあい」が乏しいことを知った。
公共図書館も書店もないへき地に生活する子どもたちに、一冊でも多く本とふれあう機会を与えたい。そして一人でも多く「読書の喜び」を味わわせたいと考えた。
そこで、早速、学校教育目標具現化の方策の一つに「全校一斉朝の読書」を位置づけた。朝の読書による子どもたちの変容ぶりは、既に前任校で経験している。前任校では、修学旅行の旅先までも本を携えて離さない生徒がみられるほど、朝の読書の成果が現われた。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
年度当初の学校経営方針を全職員が理解し、五月から本校の朝の読書がスタートしたのである。実際の読書推進は、学校図書委員会の活動とした。
(1) 目的
@読書に親しみ、想像力や理解力を身に付け、豊かな心を育てる。
A全校で一斉に行い、学級の落ち着いた雰囲気をつくり、授業にスムーズに取り組めるようにする。
B他の学習や生活面で生かせるような集中力や根気を身につける。
(2) 方法
○図書委員の声かけにより、八時二十分から八時三十分まで静かに読書をする。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
今まで一度も本を最終ページまで読み通せなかったのが、初めて一冊の本を読破し、その充実感を味わった生徒。サッカーに関する本だけに興味を示していたのが、今では赤川次郎に夢中になっている男子。『枕草子』を読んで古典のおもしろさに目覚め、次に『源氏物語』を読みたいという女子等々。生徒たちはそれぞれに「朝の読書」を通して、本との新たな出会いにより、新たな発見と新たな感動を味わい、まさに「読書の喜び」にひたっている。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
○生徒の感想から
・中学校は部活動などで忙しく、読書の時間がとれないので、読書の時間ができて、とても嬉しいです。自分でも驚くほど集中して本に向かい、あっという間に十分間が終わってしまいます。私は毎日朝の読書を楽しみに学校へ通っています。
(木村)
・ 私にとって朝の読書は、今までの自分ではない新しい自分を見つけ出すとても大切な時間です。 (田中)
・ 朝の読書で本が大好きになりました。作者や登場人物の気持ちを考えることによって、他の人の気持ちが理解できるようになりました。 (浅香)
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
図書購入には予算の限界があり、特にへき地の中学生たちの本を捜す苦労は大きい。そこで、埼玉県立熊谷図書館の移動図書巡回訪問を、年九回依頼した。訪問日は二十五分間の利用時間を確保した。毎回生徒たちは目を輝かせて自分の好みの本を選定している。
●朝の光差し込む教室ひたすらに本に向う生徒らの居り
●イワツバメ巣づくる校舎朝の読書に十分間の静寂となる
●朝の読書楽しみに通うと女生徒は読みさしの本を我に示せり
学校図書館の整備や読書環境づくり等、今後の課題は多いが、まずは「朝の読書」の実践という身近な第一歩を踏み出したところである。
|