和歌山県橋本市高野口町は、世界遺産に登録された霊峰高野山の麓に位置し、町の南には清流紀の川が流れる風光明媚なところであり、パイル織物の産地として知られている。
本校はこの地に位置し、旧制伊都中学校、伊都農業学校からの伝統を受け継ぐ全日制普通科高校である。平成十四年度からは単位制・二学期制を導入し、生徒は多くの講座の中から進路希望や興味・関心に応じて教科・科目を選択履修している。
そのような中、「『自ら学び・考え・行動する』生徒を育成したい、基礎学力や読解力の向上を図りたい」との考えから、全国的にも、効果が絶大な「朝の読書」に注目するようになった。学校全体で組織的な計画実施がなされ、先進校への視察や実践報告を聴取し、教職員で検討を重ねた。
その結果、「朝の読書」の基本原則である「みんなで、好きな本を、毎日、ただ読むだけ」を目標にしながら、平成十六年四月から「総合的な学習の時間」の授業の一環として「朝の10分間読書」(以下「朝読」)を実施することとした。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
導入当初は、ついおしゃべりをする生徒、ぼんやりとする生徒、授業の予習をする生徒などが見られ、教室内はざわついていた。そのため、落ち着いて静かに席につき、本を開く指導から始めた。本を忘れた生徒のためには学級文庫を設置した。現在、この学級文庫は生徒・保護者・教職員・地域の人たちからの寄贈本により、充実してきている。
実施四年を経て、「朝読」による一日の始まりは定着しつつある。生徒・教職員は始業開始一分前に流れる音楽とともに教室に移動する。正副担任も一緒に本を読む。教室内の生徒の集中力と静けさの確保のため、遅刻生徒には他の教員が廊下等で控室へ移動するよう指示している。控室には学級文庫同様、本を設置し、「朝読」の活動を支援している。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
生徒の読書に対する意識は、一年が経過した平成十七年度から調査しているが、当初は、「朝読」の時間に対し、約六割が否定的なイメージを持っていた。しかし、本年度の調査では、約七割が肯定的なイメージを持つようになっている。同様に「集中力・想像力がつく、知識が豊富になる」などの効果があるとも感じている。この意識変化は、学級文庫や控室の整備、教職員も一緒に読書をすることで、少しずつ整然とした「朝読」ができる環境が整ってきたことにあると考えられる。また小・中学校の「朝読」経験者が増えたことも背景の一つに考えられる。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
「朝読」の実施に伴う読書量の変化については、約六割の生徒が「増加した」と回答した。しかし、残りの約四割の生徒(実施以前から読書習慣のある生徒や読書量が多かった生徒も含む)は「変わらない」と回答している。課題は「普段から漫画や雑誌しか読まない」など、読書への苦手意識を持っている生徒に、少しでも読書の楽しさ・効果を感じることで読書量が増えることにある。このため、図書館だより等の広報活動や、各教員が本を紹介することで、本に親しむきっかけ作りをしている。一方で、生徒が本を選ぶ際の参考順は「@書店で見てA友達に聞いてB広告を見てC家族に聞いて」のようだ。ジャンルは恋愛小説や書籍化された携帯小説、ドラマや映画の原作本、ライトノベルなどが多い。このため、良書を選ぶ相互情報交換の場として、教職員や全校生徒が本を紹介する推薦本集「すすめる一冊」を既に二回発刊した。活用方法は今後も検討の余地があるが、読書への苦手意識を持っている生徒が本を通じて、友達と話すきっかけになってほしいと願っている。
図書館職員として、生徒の「おすすめ本はありますか?」「『朝読』用の本を探しています」などの声が増えたことを喜んでいる。また図書館の一人当たりの貸出冊数も増え続けている。今後も生徒・保護者・教職員からの理解と協力を得ることで、「朝読」が充実発展するよう取り組んでいきたい。
|