「あさの読書」の現場から

読書で育てる「人間関係力」

見附市立田井小学校

▲田井小学校の「朝の読書」風景

 見附市は、新潟県のど真ん中に位置する、人口4万人ほどの小さな市です。その見附市の南の外れ、長岡市との接点に田井小学校は位置します。東に守門岳を見上げ、西には越後平野が広々と広がり、まさに、「山紫水明」のただ中にある学校です。
 全校児童数36名という小さな学校ですが、学区にはかつて「青鬣館(せいりょうかん)」という私塾があり、大阪麦酒会社(現アサヒビール)の創設者であり、阪神タイガースの親会社、阪神電鉄の初代社長である外山脩造や、日本医科大学の前身である済生学舎の創設者であり、日本の上下水道施設に尽力した長谷川泰がここで学んでいます。昔から、学問・文化の薫り高き土地柄でもあります。

 子どもたちは、登校するとすぐに自分の読む本を用意して、8時15分からの15分間を読書に費やします。朝の活動のない日には、時間前から読書に没頭する子も多く見られます。全校集会がある水曜日を除く毎日、朝の読書を続けて10年以上になります。今年度から、毎週金曜日の朝の読書は、ランチルームに集まって全校一斉に行っています。読み終えた本は、題名や分類、著者名、ページ数などを「読書貯金カード」に記録、蓄積していきます。「一口感想」や「おすすめ度」の欄もあり、自分の読書生活をふり返るアイテムとしても有効に働いています。4月からの貯金ページ数が、一万ページを超える子も数名いて、読書がしっかりと生活に位置付いていることを感じます。また、今年度新たに、担任と児童、学校図書館ボランティアの「虹のかけはし隊」が一緒に選定した、各学年の必読書20冊を朝の読書時間帯に読み進める姿が多く見られます。

 限られた集団、固定化された人間関係の中で、より豊かな人間関係を築かせたい。そのために、言葉にこだわり言葉を大切にして、自分の思いや意志をはっきりと伝えていく表現力を付けることが、本校の教育課題の一つでした。読書を通して国語力・人間力を付けたいということが、朝の読書を続けてきた元々の理由です。「虹のかけはし隊」や市立図書館との連携により、子どもたちの読書環境が一段と豊かになり、定期的なブックトークやバリエーションに富んだ読み聞かせ等、子どもたちの読書活動が充実してきています。

 朝の読書とともにここ数年間力を入れてきたのが「家読」です。年間5回、家読週間を設けて、期間中に家族で読んだ読書の足跡を「家読カード」に記録します。同じ本を読んだり、時間を合わせて読書をしたり、取り組みは各家庭によって異なりますが、読書の楽しさを共有する喜びを家庭でも味わっています。この「家読」期間には、図書館の地域開放も行っており、学校と家庭だけでなく、地域全体に読書習慣が根付き、拡大していくことを願っています。

 今回の「朝の読書大賞」受賞を機に、子どもたちがより多くの良書に親しみ、豊かな心と大志をもって、地域で、日本で、そして世界で活躍する人間に育ってほしいと思っています。(書店経営2014年3月号掲載)

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