茅野市立永明小学校
▲永明小学校の「朝の読書」風景
八ヶ岳が白く輝いています。茅野市にも、厳しい冬がやってきます。木々の葉も土も凍る季節です。子どもたちは、八ヶ岳の雪解けが始まるまで、この山々を眺めながら、毎日朝の読書を楽しみます。粉雪が舞っていても子どもたちは校庭で元気に遊んでいますが、チャイムがなると駆け足で教室に戻り、8時20分の開始時刻には一斉に朝読に取りかかります。
永明小学校は、八ヶ岳山麓の西に位置する茅野市の市街地にある全校児童数645名の小学校です。茅野市は、縄文文化の中心地でもあり、『仮面の女神』と『縄文のビーナス』が、国宝に指定されています。御柱祭の街でもあります。
私は、子どもたちが朝読をしている校内を回って歩くのが大好きです。ちゃんと朝読をしているか、今日はあの子はどんな顔をして本を読んでいるだろうかと見て回ることも一つの目的ですが、それよりも静まりかえった校内で、ひたすら本を読んだり読み聞かせに聞き入る子どもたちの姿を見、その空気を感じることが、私にとって幸せな時間です。
本校に赴任した3年前のことを思い出します。2年生のクラスの廊下の掲示板に貼ってあったA君の『2年生のめあて』が目にとまりました。「僕はえ本をしずかにいっぱい読みたいです。」と書かれていました。たったの一文でしたが、クラスの友達と一緒に読書をしている自分の姿が描かれていました。大きな驚きでした。きっとこの子は、自分一人ではなく、クラスの友と一緒に同じ場所、時間に読書をすることに喜びを感じているのだろうと思います。私は、読書は個の行為だと考えていました。確かに、そうです。しかし、このA君のめあてを見たとき、友と共に為すことでもあると気づきました。読書を媒介として同じ空間で過ごす子どもどうしのつながりの心地良さを、A君は感じ取っています。読み聞かせも、一つの物語の世界を友と共有し、その世界に旅することができます。読書って、なんて素敵なことだろうか。友と読んだ本について気軽に語り合う、先生とその本の話をする、きっと一生の宝物になるでしょう。学校での読書の価値がここにあると思うのです。
朝の読書を開始して19年。保護者や地域の方と一緒に創り上げてきた読書活動です。この財産をいつまでも大切に守り、発展させていきたいと考えています。後2ヶ月もすれば春がやってきます。梅の香が漂う中で、新一年生を迎えて、本を読む子どもたちの姿を思い浮かべています。(書店経営2015年2月号掲載)
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