朝の読書を個人的に始めて八年目を迎える。当時は私の学級だけでやっていたが、今は全校でやっていることに時の流れを感じる(所属学校は違っている)。最初始めたのは、平成六年度(一九九六)の三学期からだと思う。しかし、最初の三年間は、二学期から始めたり、しない日があったり、十分間もしなかったり。
今年は八年ぶりに低学年(二年生)の担任。そう言えば朝の読書を始めてから、低学年を担任していない。これまで「低学年でもじっと集中して本が読めるかな」という質問には、ただ「できますよ」と言っていた。少しの心配はあったが、昨年の二年生は、静かに読書していたので大丈夫だろうと思っていた。昨年は三年生担任で、一学年しか学年は変らないし。楽観的であった。
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ところが、そう簡単にはいかなかった。学級の中には、文字を一文字一文字しか読めない子やひらがなをちゃんと読めない子がいる。当然その子たちにとってみると、朝の読書の時間は退屈でたまらない。「A児君、しいっ」「B児さん、読んでる?」小声で何度も注意する。朝の読書のときは怒鳴りたくない。あまり成長を感じない子たちに、ときには怒って、ただ黙っていてくれたらいい、そう思ったときもあった。
そこで、学級文庫から文字が極端に少ない絵本、楽しそうな絵本をとにかく薦めた。
次第に、静かになる時間が増えていった。「A児君、最近静かに本を読んでいるねえ」「B児さん、感心だねえ」ここはとばかりにほめた。にこっとした笑顔が印象的。この辺りから二人の態度に変化が表れた。
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九月のある日、A児が「先生、ぼく、本読むのが好きになった」と言ってきた。信じられなかった。継続していくことで、効果が表れてきたのかもしれない。「どうして好きになったの」と聞いてみると、「面白いから」と答える。「なにが面白いの」「サンタさんが面白い」「サンタさんが出てくる本なの、見せて」「はい、この本です」と言って持ってきた本はいずれもサンタが出てくる本。と言うことは、一冊目のサンタの本を読んで面白かったから、また他のサンタの本を読んだことになる。それらの本はどちらも文章が少なく、絵が多い。ストーリーが分かりやすい。それだけでなく、この子は、登場人物に着目した読書をしたことになる。
B児も、自分から「朝の読書が楽しい」とは言わないが、こちらから尋ねると、「楽しくなった」と微笑む。どんな本を読んでいるかというと、武田美穂『となりのせきのますだくん』のような漫画に似ているようなつくりのもの。次に持ってきたのが同じシリーズの本。この二冊を繰り返し読んでいる。と言うか見ている。しかしスムーズに読めないことはあっても想像力は働かせている。
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十一月になって、VTRを視聴した。四月に朝の読書の風景を撮影したもの。三分間。当時、態度がよくなってきたということで撮影していた。まず、気付くのが、全体的に子どもたちが落ち着いていないこと。目があちこちを見ている。子どもたち自身も「あっ、○○君がきょろきょろしている」「なんか話し声が聞こえる」「本を交換するために立っている人がいる」などと自分たちの姿を指摘している。二人の子は一目瞭然だった。隣の子の本を覗いたり、閉じたり開いたり。本人たちは、視覚的に自分の姿を振り返ることができた。客観的に成長を感じることができた。朝の読書をやっていてこの変化がうれしい。
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ここまで、低学年担任として朝の読書を続けることができた。今は、体験を通して「低学年でも朝の読書は十分にできる」と自信を持って言うことができる。この二人のおかげでもある。二人の変化が、成長がそのことを教えてくれた。二人と朝の読書への感謝を忘れないでいたい。そして、ただ黙っていてくれたらいいと思ったことを心から詫びたい。
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