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「心の扉を開ける」朝読書のひととき

岩手県盛岡市 盛岡第四高校
▲盛岡第四高校の朝の読書風景

 朝読書の十分間は、校内を流れる空気が違っているような気がする。清澄な空気に包まれたこのひとときは、一日の学校生活の中で最も心落ち着く時間である。
 全校生徒が千百名を超える盛岡四高、通称「志高」は文武両道を目標に、運動部では、陸上部、登山部のインターハイ上位入賞、文化部では文芸部の全国高校生文芸コンクール四年連続文部科学大臣奨励賞、書道部の全国展入選をはじめとする全国レベルの活躍が目覚ましい学校である。また、進学率も98%以上で、多くの生徒が、国公立大学、私立大学等への進学を目標に勉学に励んでいる。
 以前は、進学実績を伸ばそうと朝学習、課外、週末課題、水曜テスト実施等、受験体制を色濃くしていた時期もあったという。が、私が赴任してきた五年前は、ちょうど「心の教育」をスローガンに、職員の意識改革が図られていた時期にあたり、「特色ある学校づくり」の気運と相俟って、朝読書が全校一斉に始められた。

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 実施にあたっては、職員会議で図書課からの説明を受け、職員の共通理解を図るとともに、保護者に向けて主旨についての文書を配布し、理解と協力を求めた。私自身は、前任校でも朝読書を中心となって実施してきた推進派だったので、この流れは大歓迎だった。ベースとなったのは、朝読書の提唱者林公氏の著書であったが、本校は幸い、「より豊かな心を磨く」という目標を設定できる環境にあったため、順調な滑り出しから現在に至っている。
 生徒たちにアンケートをとっても朝読書は好評で順風満帆に進んでいるが、我々職員サイドでの揺れが生じることがあるのも事実である。特に、今年度は学校週五日制完全実施に伴う授業時間数の確保という受験体制への最も大きな難題の前に、一部には、朝読書をカットするという意見も浮上してきた、しかし、最終的には、「心の教育」を特色ある学校づくりの屋台骨としていることを重視し、継続の道を選び実施五年目の冬を迎えようとしている。
 この選択が正しいことを、今年の三年生も来春には実証してくれるだろう。事実、過去四年間の進学実績は以前より好調であり、加えて先にも述べたように、運動部文化部ともに活躍が顕著である。柔軟な思考が読書によって育まれているかどうかは、残念ながら数値によって表すことはできないが、「書くこと」を厭わない生徒たちが多いことや、生き生きと部活動に打ち込み、卒業後も「高校時代は楽しかった」と来校する卒業生たちが後を断たないのは、本校の「心の教育」の成果のあらわれと言ってもいいのではないだろうか。知識を詰め込むだけの受験勉強からは決して得ることができないものを、「心」に刻んで卒業していった証しだと思うからである。

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 冒頭に述べた清澄な空気は、毎朝、千百名の生徒と、七十余名の職員が共に醸し出しているものだ。目には見えないが、この空気は、しかし確実に生徒たちの「心」の中に流れ込み、浸透していっているようだ。磨かれた心が創り出すもの、それは無限の可能性を秘める。
 活字離れが叫ばれて久しい。そのことと「ゆとり教育」が提唱されてからの学力低下の問題は関連性がありそうだ。思うに、「ゆとり」は、学ぶ内容の増減の問題ではなく、読書をはじめとする「ゆとり」を子どもたちに作り出していくことではないのか。
 遠い将来、多くの本との出会いにより、新しい「心の扉」を、ひとつ、またひとつと開けていった若者と、知識を頭の中にだけ詰め込んで過ごした若者の生き方は、大きく変わってくるに違いない。
 今日も、朝のさわやかな空気の中、本との出会いにより、生徒たちの「心の扉」が、またひとつ開けられていく。


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