中学校一年生の時に出会ったモンゴメリの『赤毛のアン』。アンの世界にすっかり魅了され、アンシリーズはもとより、モンゴメリの翻訳されている本すべてを読破した。本を読めば、いろいろな人生との出会いがあり、自分の世界が広がることを実感した。以来、いろいろな作家の本を読みあさり、自分の人生において本はなくてはならない存在となった。
中学校の国語教諭という職について、子どもたちにも、ぜひこの出会いを体験させたいと思った。しかし、子どもたちの興味は、いつの問にか本から離れてしまっていた。特に中学生は、いつも時間に追われ、忙しい毎日を過ごしていた。「本を読む時間などない」と生徒に言われた。時間がないのなら、読書の時間を確保しようと考え、「朝自習の15分間を読書の時間に」と提案した。
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しかし、ドリル中心だった当時の朝自習。週に一回だけしか認められなかった。たとえ週に15分間でも、0よりはましだと考え、週に一回の「読書タイム」をスタートさせた。しかし、「本を忘れた。」「読む本がない。」という生徒が続出。おすすめの本を紹介したり、私の本を貸したりしたが、なかなかスムーズに読書タイムが始められない。そこで、15分程度で読める短い本を選んで、B4用紙一枚にまとめ一人ひとりに配った。
読書を始めるまで、本の用意にかかっていた時間がなくなり、スムーズに始められるようになった。一言感想も書いてもらい、読書タイム通信で紹介した。ただ、週に一回とはいえ、読み物を自分で用意するのは大変だった。15分間で読み終えるので、次の読書への発展もない。感想を嫌がる生徒もいた。
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悩んでいる時に、「朝の読書」に出会った。「みんなでやる、毎日やる、好きな本でよい、ただ読むだけ。」こんな簡単なことなのか、と目から鱗が落ちる思いがした。転勤した次の学校でこの方法を提案してみた。ところが、こんな簡単な方法なのに、そう簡単にはいかなかった。一、二年生の毎日の朝自習を読書に充てることはいいが、三年生は、受験対策のセミナーの解答をしなければならないのでだめだという。自分が一年生の担任ということもあり、結局承認は得られず、一、二年生のみの取り組みとなった。
半年後、落ち着いた雰囲気の中で静かに本を読む朝自習が習慣となっていった。また、朝自習だけでなく、十分間休憩や、昼休み、給食の準備中にも本を読む姿が多く見られるようになり、教室が落ち着いた雰囲気になってきた。図書室の本の貸し出し量も増え、図書の購入希望リクエストが生徒から多くだされるようになった。しかし、予算の関係で、生徒が読みたいという本をたくさん購入することができない。そこで、県立図書館の団体貸し出しを利用することにした。三ヵ月ごとに、300冊程度の本を借りてきた。県立図書館まで行って選書する作業は大変だが、本を借りて帰ったときの子どもたちの喜ぶ顔で、苦労も報われた。
一、二年生のみの朝読書がスタートして二年後、自分が三年の担任になり、全校朝読書を再度提案した。前年までの実績もあり、すぐに承認され念願の全校朝読書が始まった。□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
そして、昨年、全校生徒13名の学校に転勤してきた。本校でも、「みんなでやる、毎日やる、好きな本でよい、ただ読むだけ」を実践している。毎朝、落ち着いた雰囲気でスタートでき、子どもたちの精神も安定しているようだ。教職員が読んでいる本に興味を抱き、それを借りる姿も見られる。自然に読書の幅も広がるし、本を通して会話も広がる。
本来、子どもたちは本が大好きである。本との出会いの場面を設定すれば、自分の世界をどんどん広げていくのである。時代が変わっても、本質は変わらないということを実感した。今後も、子どもたちと本との多くの出会いの場面を作っていきたいと思う。 |