私の「朝の読書」との出会いは10年以上前に遡る。
最初に勤務した学校は男子校だった。勤務して数年、もう少し読書をする生徒があってもいいのにと思案する日々だった。ある日の新聞に、朝に読書をする学校の様子が載っていた。同僚の先生に、こういうことができるんですね、うちの学校でもできないでしょうかと言うと、そう簡単にはいかないよ、という答えだった。そうだよね、と私もなぜか納得していた。その後、私は転勤が決まり、郡部のM高校へ赴任した。
そこには驚くばかりの出来事が待っていた。廊下を見るとパンやジュースの空箱、紙くずがいっぱい。それにガムがあちこちに吐き捨てられていた。壁になぜか靴の足跡。どうしてなのと思わずにいられない光景だった。劣等感の塊みたいなこの生徒たちに何かできないかと考えるようになった。小さくても自信を持つものがあればと思った。
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そんな中、図書館の常連さんは、素直で明るく、人なつっこく話し掛けてくる。とても救われる思いだった。
平成6年、県から特色ある学校作りが提唱された。それを受けてM高校では、まず、学校を良くするにはどうしたらよいかそれぞれ考えるよう校長から指示が出された。私は少し前に天声人語に載った『朝の読書が奇跡を生んだ』を読み、心のなかではこれしかないと思っていた。勇気を出し、「朝の読書」を提案してみた。何回か職員会議が持たれ、みんなの合意のもと1ヵ月の試行が決まった。
平成7年5月22日スタート。一番驚いたのは先生方だった。あれほど煩かった朝の時間に10分間も静寂が訪れたのだから。それはまさに奇跡だった。1ヵ月の試行が終わるころ行った職員のアンケートには、このまま続けようという意見が多く、継続が決定された。その後、また転勤の命が下り、どうしても動かざるを得ず、あとの方に託すことにした。
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次の学校は、女子の進学校だった。読書する生徒はそこそこいるし、何も問題はなさそうだったが、大学の推薦入試が増えるにつれ、小論文指導に力を入れなければならなくなっていた。校長は「朝の読書」を前任校で経験済みなので話は進み、その年には2週間の試行が実現。現在は期間限定で実施されている。
現在の学校に転勤して3年になるが、昨年1ヵ月間の試行が行われ、今年は、全校一斉、全学年で実施されている。M校での苦労を思えば雲泥の差である。
生徒の反応は、もうすでに中学校で経験している生徒がクラスで半数を超えているので、スムーズな流れである。図書館に来る生徒たち、図書委員との会話でも「朝の読書」は好評である。
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2年男子生徒の変化をお伝えしたい。掃除に来る生徒だが、なかなか反抗的。帰り際、本を探している様子に『ヤンキー母校に生きる』を薦めてみた。意外と素直に借りていってくれた。返却の時も声をかけて「どうだった」「おもしろかった」「じゃ同じ人のだけど、これどお?」「うーん」。それからは、私に対する態度が変わってきた。
野球部で活躍の男子。「世界の中心で…という本ないですか」「今貸し出し中だね」「じゃ何かオススメないですか」「やはり恋愛物」「そうですね」「天国シリーズはどう」「読んで見ます」。スポーツ選手の意外な面が見られて楽しい時間だった。
女子生徒との会話。「なんかないですか」「『カラフル』どう」「どんな話ですか」「少年が亡くなるんだけど…」と新しく紹介する本を準備しないと追いつけないほど聞かれるようになった。
今は、今回の直木賞を受賞した、宮城県出身の熊谷達也さんや県在住作家の本を薦める毎日である。
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