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読書でしか味わうことのできない世界

岩手県川井村 川井小学校
▲川井小学校の「朝の読書」風景

 「全校で朝読書≠ノ取り組んでみませんか」
 職員会議で先輩教諭から提案された時、私は、どちらかといえば否定的な考えが強かった。なぜなら、国語や算数の基礎・基本とされる計算、漢字、文法などの習熟を朝自習の時間にさせたかったからである。ましてや近頃様々なところで基礎学力の低下が話題にされ、「基礎・基本の定着」を研究テーマに掲げ、取り組んでいる学校が多い。私自身も同じ考えを持っていたので、「読書をさせるよりも計算練習や漢字練習をさせたい」という考えが強かったのである。
 会議の中でも、様々な議論がなされ、「まずは、やってみよう」となり、朝読書への取り組みが始まった。
 朝読書のはじまりの合言葉は「みんなでやる」「好きな本でよい」「ただ読むだけ」の三つであった。

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 取り組み始めたときの子供たちの反応は、おおかた予想はついていた。10分という短い時間なのに何冊も本を変えるために立ち歩く。自分の読みたい本を選べない。飽きてしまって話し出す――といったところだった。それでも、三つの合言葉通り黙って好きな本をただ読ませていった。すると不思議なことにだんだんと私語が減っていった。また、一冊の本を時間いっぱい読むようになってきたのである。
 なぜだろう。子供たちの日記や作文の中にその答えを見つけた。
 まずは、生活リズムが確立されてきたことが挙げられる。「朝の読書は、朝一番のリラックス。みんなが静かに読書をしているときは、みんなの心が一つになったころだ」(四年・男子)と一日のスタートが快く始まる。そして、明日の朝読書の本選びで一日が終わるのである。

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 次に、自分にあった本を選び、本の世界にどっぷりとつかることができるようになってきたことも見逃せない。「本は作者からのプレゼント」「心を豊かにするものでもあり、自分を変えられる大切なもの」「心の中のモヤモヤしたものをスーッとどこかに消してくれる友達のような存在」(六年)などと読書の楽しさや喜びを自分の言葉で語れるようにまでなった。
 また、「読書はテレビと違い、自分の頭で自分なりに想像できる。これからも読書でしか感じることができないすばらしさを、頭と心で感じていきたい」などと、感性に磨きをかけ始める子も出てきているのである。

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 最初は、反対の考えが強かった朝読書に対しての私の考えはこのような成果によってだんだんと変わっていった。
 取り組み始めてから約一年。子供たちは朝読書の前日には、どの学年も必ず机の上に明日読む本をあげて帰宅する。誰もいなくなった教室で、一人一人の机の上を見ながら、本の向こうに見える子供たちの心に思いをはせるのも楽しみの一つになってきた。
 こうして三つの原則は、あっという間に定着した。そこで、「毎日やる」が加わればもっと子供たちのためになるのではないかと議論を重ねていった。
 結論が出るまでにそうは時間はかからなかった。子供たちの成長が職員間の心も一つにしていってくれたように思う。
 「本は心の栄養」とよく言われている。週五日制になり、「総合的な学習の時間」が入り、教科の時数が減り、ますますゆとりの時間が減ってきた今。だからこそ読書の時間が必要であると思う。自分の好きな本を毎日ただ読む。その繰り返しが「生きる力」の原点となり、豊かな心を養うことにつながると考える。
 小さな村の小さな小学校の子供たちが、読書を通じ、たくさんの世界を知り、様々な場で生きる人たちとふれあい、大きな夢を抱き始めている姿をうれしく思う。これからも様々な世界へ誘ってくれる本の魅力を全ての子供たちに味わわせていきたい。


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