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心を落ち着けて朝のスタートを

山形県櫛引町櫛引中学校
▲櫛引中学校の「朝の読書」風景

 櫛引町は、米どころ庄内平野を南北に貫いて流れる赤川をはさんで、東には月山、北には鳥海山をのぞむ美しい町である。農業の町であるとともに、全国的に知られた、五百年の伝統を誇る黒川能の里でもある。昔からの伝統を今に伝える町「櫛引」――櫛引中学校は、そんな町にある生徒数三〇〇名の学校である。
 「まもなく登校完了の時間です。教室に入り、朝読書の準備をしましょう」
 毎朝きまって流れる放送委員のアナウンス。定期テスト前を除いて、毎朝八時二十分からの十五分間は朝読書の時間である。学校中が静寂に包まれる時間だ。

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 本校で朝読書が始まって八年になる。当時の国語科の先生が、子ども達の生活経験を豊かにしたいと教職員に紹介して導入したものである。
 のどかな田園地帯にある本校は、いわゆる「荒れ」がなく、逆にのんびりしすぎていて、競争意識が足りないという悩みを抱えた学校であった。それ故、当時は、朝の時間も、ドリルなどの学習に取り組んでいたということであった。だが、朝学習で使ったプリントが少なからず散乱していたり、朝から「わからない」といって学習を投げてしまう生徒がいたりと、登校してすぐ教科の学習に向かうという生活は、必ずしもいい方向に向いているとは言えなかったようだ。
「もっと心豊かな生活をさせたい」、「気持ちを落ち着けて朝のスタートを切らせたい」――朝読書が始まったのも、そんな教師達の思いからだったと聞いている。

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 ルールはたった一つ、「漫画は読まない」こと。はじめは「漫画はだめなの?」と言っていた生徒も、一ヵ月もすると夢中で活字を追うようになっていたという。
 朝読書が始まった翌年から、図書室では、新刊図書を中心に朝読書用図書を選定し、読書徹底月間に合わせて生徒に紹介するようになった。生徒が手にとって選ぶことができるように、図書室の入り口付近に本を並べ、視覚に訴える方法もとった。また、必読図書としてリストを作成して、生徒が好きなジャンルの本を探しやすいようにした。蔵書は、小説や物語、ノンフィクションなどの読み物が年々増えていった。現在では、発刊間もない本を「朝読書で読みたいから図書室に入れて」と要望がくるほどである。

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 本校に入学してくる一年生は、一様にこの朝読書に驚く。地域にある三つの小学校でも朝の読書に取り組んではいるが、週に一〜二回だからだ。一年生は、
「はじめは毎日と聞いてびっくりしたけど、今はすっかり慣れて、朝からいい気持ちになっています」「毎朝十ページぐらいずつ読めるけど、今読んでいる本がおもしろいので、昼休みも読むときがある」
 などの感想を述べてくれた。二、三年生では、さらに、「いろいろなことをよく考えられるようになった」と言ってくれる生徒もいる。
 「ただ読むだけ」「感想などは書く必要なし」という気軽さが、生徒を本に向かわせている。現在は、八時二十分を待たずに、八時十五分過ぎには各学年とも着席して本を読み始めているという嬉しい毎日である。学力向上が叫ばれる咋今であるが、本校では、朝読書をやめて朝学習に≠ニいう声は全くない。これから先も、毎朝の十五分間が生徒の心に潤いを与える十五分間であることを願ってやまない。


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