「先生、課題が終わったので読書しててもいいですか」
驚いた。一年、二年と同じ学年を指導してきて、一度も出なかった言葉である。三年生となった昨年、ごく自然にこの言葉が出てきた。そう、この年から本校では朝読書の取り組みが始まっていた。
「豊かな人間性を持ち、主体的に生きる生徒の育成」は本校の研究課題である。研究構想としては、「日々の授業の充実」と「生活環境の充実」を提示している。なかでも「生活環境の充実」として提示した研究構想の内容の中には、「安定した生活環境としての学校づくり」を掲げ、学校全体の生活を安全に安定したものにしていく工夫を提案してきた。
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子どもたちの活字離れが盛んに取りざたされ、TVゲームや携帯電話の普及でじっくりと活字を読む習慣がついていないという嘆きの声が聞かれはじめて久しい。本校でも、落ち着きがない、人の話が聞けない、仲間同士の関わりあいも希薄な面が見られ、「コミュニケーション科」を増設して研究をしてきたことからも察せられる現状があった。生徒一人一人については、すばらしい個性を持ち、その能力も高く、キラリと光るものを持ち合わせてもいるのだが、反面、表現の能力を検証した場合、感性の面において、その能力を育成する取り組みを考えようという声があがっていた。
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そこで取り組んだのが、「朝読書」である。
過去二年間、課題が早く終わったから読書をさせてくれという要望は、一度も生徒の口から出なかった。朝読書を始めた年、生徒は、朝読んでいる本の続きが気になってたまらないのだという。一人が声をあげると、何人もが続いて声をあげた。授業の時ですらこうであるから、昼食時、早く食べ終わった者は、机から本を取り出して読書を始める、という場面も多く見かけるようになった。
自然と図書の貸し出し数が倍増した。生徒たちが図書館の開館を待ちわびるようになった。国語科のアンケートでもっと取り組みたいことのbPは読書となった。生徒のなかにどんどん本が浸透していくのがわかった。
また、図書の絶対数が足りないという図書主任からの要望を受けて、保護者に提供を呼びかけると、あちこちのクラスから、たくさんの本の寄付があり、学級文庫も充実した。思いがけず、新品同様の瀬戸内寂聴の「源氏物語」が届き、教員団が色めき立つというおまけまであった。保護者の協力には本当に感謝している。
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読書は感性を育み、磨き、生徒の自己表現の向上を図る上において、最善の取り組みである。読書を通して、落ち着いて深く物事を考える基礎が身につくといわれる。「先生、なんだか朝の学活がすごく落ち着いたように思うんです」朝読書を始めて間もない頃、ある学級担任が私に語りかけてきた。確かに、そのクラスは朝からとても元気で、担任の注意の声がよく聞こえてきたものだが、朝読書に取り組み始めてから、私もそういった状態が改善されているのではないかと思っていた矢先であった。「この取り組みはいいわ」という感想は学級担任はもとより、学年を預かる立場の私にとっても実感していたことであった。
感性を育みたいというのも、われわれの朝読書を始める目的であった。昨年度「西日本図書館フォーラム」の研究発表会でわれわれの学年は、高知の良さをアピールするためのポスターを作り、セッションをするという授業を行った。ここでポスターに書かれたキャッチコピーには秀逸な作品が多く、参加いただいた先生方からもお褒めの言葉を多数いただいた。読書は心の栄養剤。本校は当然今年も朝読書に取り組んでいる。 |