由利本荘市は秋田県南西部に位置し、平成十七年三月に誕生した県内一の面積を誇る山と海のある自然豊かな市である。その日本海側の出羽丘陵に囲まれた静かな街を見おろす高台に出羽中学校がある。全校生徒百六十人程のアットホームな学校だ。
朝八時、「朝読書の準備をしてください」図書委員の呼びかけと共に全校が静まりかえる。毎日の朝のスタートの光景。先生も生徒もいっしょに読書に浸る至福の時である。ルールはただ一つ。「活字を読みましょう」
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本校で「朝の読書」が始まったのは、六年前(平成十二年)。その年赴任していらした校長先生が提唱したのがきっかけだった。初めは学期に二回ずつ一週間、読書週間としてスター卜し、次の年からは日課表に明記され、「朝の読書」の時間が始業前の十五分間設けられた。しかし、これまでは朝の学習を行っていたので、当然学力低下を危惧する声も聞かれ、完全実施とまではいかなかった。ある年は昼休みに設定され、ある年は朝の学習と交互であったりと、今の形になるまで試行錯誤が重ねられた。しかし、誰も「朝の読書」をやめようとは言わなかった。むしろ先生方がご自分が昔読んだ本や、読ませたい本を教室に持ち込んでくださり、環境も少しずつ整っていった。そして今の毎朝の読書の形が定着したのだった。中学校に入学してから部活動や生徒会活動が忙しく、なかなか読書をする機会が得られないので、生徒には好評だ。年度末のアンケートでは学校でいちばん落ち着ける時間だとかもっと時間を延ばして欲しい、本を読むのが好きになったなどうれしい回答が寄せられた。逆に、まだ朝の時間帯はつらいとか読みたい本が見つからないときはつまらないなどの声も聞かれ、そういう生徒への支援も課題となっている。
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また、子どもたちの土壌に小学校からの継続というのがある。同じ地域にある岩谷小学校は「朝の読書」はもちろんのことPTAのボランティアによる年間二十回の読み聞かせや紙芝居など本に親しむ機会がたくさんあった。地域ぐるみで本好き、読書好きの子どもを育てていこうという動きがある。秋田県は「学校教育の指針」の中に読書活動の推進を銘打ち、「朝の読書」や読み聞かせなどを日常の教育活動に取り入れることを指導している。それを受けて由利本荘市でも「朝の読書」の実態調査や情報提供が行われている。学校図書館研究部はブックトークや読み聞かせの先駆けで、子どもたちを本好きにする手法を身につけている先生方や地域のボランティアの方々がたくさんいる所である。
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本校の「朝の読書」は、できるだけシンプルに自由に本に親しむ時間を作って来た。他校の例を見ると、きちんとした朝読書のしおりや約束事ができており、それに比べるとつたない取組みではあるが、あれもこれも要求するよりはまず楽しもうという自然体で実施している。生徒も互いに読んでいる本の情報交換をしてさまざまな本に触れあっている。昨年度にはうれしいことに生徒からもっと教室に本が欲しいという要望が出て、図書委員の活躍の場ができた。図書室から学級に学級文庫という形で貸し出すことになり、初めは十冊ずつの貸し出しが、二十冊になり、さらにはこんな本はないか、あんな本はないかと問い合わせもあり、活動が活発になったのだ。図書館担当もうかうかしていられない。緩やかではあるが、子どもたちが主体的に読もうとし、自主的に活動を始めたのだ。担当としては思いがけない効用だった。
「朝の読書」は心の糧。子どもを取り巻く騒々しいご時世だからこそ心豊かな子どもを育てるために本をたくさん読ませたい。 |