山形県鶴岡市、『蝉しぐれ』の町。近年、藤沢周平の小説が火付け役となり、海坂藩の面影を探しに文庫本を片手に散策する人々の姿を見かけるようになりました。鶴岡は元禄の頃、芭蕉が訪れた町、明治以降は高山樗牛、女流作家の田澤稲舟、現代では芥川賞作家の丸谷才一、奥泉光、直木賞作家の藤沢周平、佐藤賢一を輩出しています。この文学的風土が息づき、今もなお学問や文化を愛する文教都市が鶴岡です。市内の小学校では読書活動が活発に推進されていて、子どもたちは図書館や読書に親しんできています。平成16年(2004年)4月、本校の「朝の読書」が全校一斉に始まりました。平成10年に開校された本校は、普通科と総合学科を併設する全国でも珍しい新しいタイプの単位制の高校です。全校生徒数は952名、職員数は80名を超える山形県では最大規模の県立高校です。本校は朝の読書はまさに「1、000人の朝の読書」として続いています。
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私は平成12年に本校に赴任し、普通科の担任になりました。開校の勢い溢れる、元気のよい明朗な生徒たち。新しいタイプの高校を立ち上げ築き上げる慌しい毎日の連続でした。そんな中で我がクラスの読書状況はといえば、貸出冊数3年間校内最下位という始末。国語教師の担任が「本を借りよう」「本を読もう」とただ叫んでも、生徒には一向に通じません。生徒たちだって学習に部活動に、何より楽しい高校生活に忙しく過ごしていたのです。1、000人の若いエネルギーが集まるのですから、その頃の本校の朝はなんとも騒然たるもの、大人以上に生徒も忙しい日々。私たちにできることは「時間」という読書環境を平等に生徒に作ることではないか、そんな思いを持ちました。
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平成15年度に当時の校長の「朝の読書」を始めたいという意向を受け、半年の準備期間を経て現在の本校の「朝の読書」のスタイルができました。朝8時35分から45分までの10分間、1、000人の朝は静寂に包まれ、ほとんどの生徒が読書を始めます。中にはこっそり予習をしたい素振りを見せる生徒もいますが、「読書だよ」と声をかけると本を開きます。こうして、本校の朝は変わりました。全教職員の協力によって「朝の読書」がスムーズに行われ、落ち着いた中で学習に向かう雰囲気が作られていると感じています。
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●「朝の読書」は主体的に「読書する」時間
読書習慣の育成には辛抱強く継続する「待ち」の時間も必要です。生徒の心の中に蒔いた本の種が芽を出し、花を咲かせるようになるのは時間がかかります。しかしそれは即効性と評価を求められる教育現場にあっては厳しい問題といえます。そこで「朝の読書」を継続させるには人の力が必要となってきます。本校の場合は生徒が主体的に動き、広報や放送活動を通した呼びかけを行っています。学習センター委員会編集班で発行する手作りの「センター月報」には、高校生の視点で選ばれた本が紹介されます。それに加えて今年度は視聴覚班の生徒が活躍しています。毎朝の朝読開始の放送だけでなく昼の放送も始め、先生や生徒会役員による本の紹介や思い出の一冊を紹介したり、各部の生徒にインタビューしたりと、音楽を交えながら楽しい番組を作っています。学習センター委員会の活動が「朝の読書」を支えています。この生徒たちが大人になった時に、「朝の読書」がどんなふうに花を咲かせるのか私には楽しみでなりません。
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