横浜市の北部に位置する山内中学校は、昭和22年4月に開校し、今年で創立60周年を迎える。昭和41年東急田園都市線が開通し、たまプラーザ駅ができた後、地域の開発が進むなか、横浜市の中学校の中でも理想的な8、700坪の敷地を有し、恵まれた環境の中で、現在602名の生徒が学んでいる。
朝の学活後、基礎学力の定着をはかる朝学習を終えた生徒から、自分の好きな本の世界へと入っていく。9時からの10分間は山内中でいちばん静かな時が流れる。
本校の朝読書は、平成17年度より全校一斉の取り組みを始めた。今年で3年目を迎え、生徒・保護者・教師ともに朝読書が定着しつつある。導入前は本校も学校全体が落ち着かない時期もあり、教育課程の研究・推進の中で、朝読書の導入が検討された。
横浜市内の中学校での取り組みや成果なども報告されていたため導入にあたっては大きな反対や混乱はなかったと記憶している。朝読書を取り入れたから、すべて生徒指導上の問題がなくなったというわけではないが、学校全体が落ち着いてきた中で朝読書がよい影響を与えているというのも事実である。
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導入前は「生徒が本を持ってくることが本当に出来るのか」「読書をする静かな環境がつくれるのか」「本を読まない生徒が出てくるのではないか」などの不安な声もあがっていたが、こちらの心配には及ばず、大半の生徒は自分で好きな本を持ってくることが出来ている。本を忘れたり、用意できない生徒も学級文庫や各学年の廊下にある学年文庫の本棚から自分で本を選んでいる。学級担任の先生のお薦めの本が50冊以上そろっているクラスもある。
4月に入学してきた1年生に朝読書の感想を聞いてみると、
・読書だけの時間があるとゆっくり読めて楽しい。
・普段の生活でゆっくり本を読む時間が無いのでちょうどいいと思った。
・前(小学校の頃)は、朝読書の時間はなかったので、この3ヶ月間で読むことが増え、読むのが楽しくなった。
・部活などで本を読む時間がないかなぁと思ったけれど、朝読書の時間があってますます本が好きになった。
多くの子どもたちは本を読む楽しさやおもしろさを知っている。身近に本があり、読む時間があれば、自然と読書の世界に入っていく。実際、始業時間の前や昼食後などのちょっとした時間に本を広げている生徒を目にするようになった。クラスでは読み終わった本を友だち同士で交換して読書の輪を広げつつある。今後は、より幅広いジャンルの本の世界へ生徒たちを誘うために読書環境のより一層の充実が課題である。
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ここで、本校の読書週間(十月三十日〜十一月十七日)中の「朝の読書」の取り組みを紹介しましょう。
この期間の「朝の読書」は、教師が担任している学級以外の学級に、交替で読み聞かせに入るように取り組みました。目的は、
◆子どもたちにとって、担任以外の教師に読み聞かせをしてもらうことで、新鮮な気持ちで本を味わうことができる。
◆教師側にとっても、他の学年、他のクラスへ読み聞かせをすることで、普段関わりのない児童と交流が持てたり、さらに教師自身の読書指導への意識を高めたりすることにもつながる。
というものでした。勿論、校長先生や教頭先生にも、とっておきの一冊を持ち込んで頂きました。子どもたちは、普段、交流のない先生方からの心のこもった読み聞かせに、
「今日の先生は、どんな本?」
「先生、また読んでね」
と、目を輝かせ楽しみに待っているようでした。
ちなみにこの期間、教師が読み聞かせを行った図書は、『100万回生きたねこ』『めっきらもっきらどおんどん』『葉っぱのフレディ』『よだかの星』『千の風になって』…など枚挙にいとまがありません。
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横浜市の「読書に関するアンケート」(平成17年7月実施)によると学校図書館で1冊も本を借りない生徒が中学2年生になると80%以上いるという。その中で、山内中の学校図書館では、生徒が読みたいと思う本を入れるために、図書委員の生徒が書店に出向き、図書購入の機会を設けている。徐々に、朝読書用にお薦めの文庫本や新書版の書籍も増やし、貸し出し冊数も増加している。また、学級文庫や学年文庫の充実をはかり、生徒が学校図書館の本に触れる機会を積極的につくっていきたいと考えている。さらに今後は、朝読書の時間を活用して、幼少期から多くの生徒が体験してきたであろう、教師や保護者による「読み聞かせ」を取り入れたい。小学校の読み聞かせとはまた違った味わいが、中学校の読み聞かせにもあるに違いない。
読書は子どもの成長にとって必要でないという人はいないだろう。中学校での朝読書も特別なものとして扱うのではなく、生徒の心の成長を潤す水のようなものであってほしい。「この本おもしろい!」「好きな本を読みたい」という生徒の素直な気持ちを受け止め、「こんな本もあるよ」「続きを読んでみたら?」など生徒と教師の本を通したコミュニケーションを大切にしていきたい。山内中に潤いの水が絶えることのないように、朝読書を地道に積み重ねていこうと思う。
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