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朝の読書が喜びと誇りを!
千葉県東葉高等学校 教諭

  私が教師になってから、早くも三十年近くになります。
確かに過ぎてみれば、あっと言う間の出来事だったようにも思えますが、それはそれは色々なことがありました。
そして、どちらかと言えば、辛い事・悲しい事・苦しい事の方がはるかに多かったように思います。
小学校から大学まで、陸上競技の選手として厳しい練習を乗り越えてきたおかげで、自分が苦しい事には決してへこたれない精神力に恵まれましたが、まるでそのお返しのように、他人の痛みや悲しみにはとても耐えられないという、今の時代を生き抜くには大変損な性格を合わせ持っているのです。

教師である私にとっては、生徒は誰でも可愛くてしょうがないのです。
それが不運なことに、私が勤務することになった高校は、入試制度の改変にもてあそばれてか、第一志望(ことによっては第二志望も)の高校を落ちた子(そんな子だけではもちろんありませんが)が、いやいやながら来るような学校だったのです。
私がどんなに一生懸命尽くしても、一度挫折した生徒の悲しみはちょっとやそっとでは癒されません。
中には自暴自棄になって非行の道へ入ってしまう子もいました。
おとなしい真面 目な子ほど、他校の生徒に対する劣等感に打ちひしがれていたりするのです。
私は教師になるとすぐ、もう若さにまかせて、そういう生徒達のために、文字通 り身を粉にして尽くしてきました。
でも、私の力で教える生徒の数などたかが知れています。
年を取るにつれて自分の頑張りもきかなくなります。
そればかりか、生徒の実態はますますその困難さを増すばかりなのです。
正直言ってこのままいけば、私自身も倒れてしまいそうでした。

その時です。
私達の学校で、前回までこの欄を担当なさっていた林公先生が全校一斉朝の読書を提案したのは!
あまりにも突飛な事とて反対の多かった中で、私はもしかしたらというかすかな期待と、それこそ藁にもすがる思いで、すぐ自分のクラスで実行してみたのです。

一カ月もしないうちに、結果が出ました。
大成功だったのです!
私も必死でしたが、生徒もよく期待に応えてくれました!
何よりもこの実践は、教師に思いやりと誠実ささえあれば、何の準備も苦労もいらないのです。
生徒は自分の力でぐんぐん伸びていくのです。

教師になって二十年近く、もう続かないという所まで追い込まれて、この実践を始め、私は初めて心の底から教師であることに大きな誇りを感じました。
辞めなくって良かったと思います。

なぜなら、この実践によって、生徒の顔から暗さが消えたのです。
自信を持ち始めたのです。
自分が努力することで、読めない本が読めるようになり、どんどん難しい本に挑戦するようになり、それさえ読みこなせるようになることで、今までの劣等感に打ち克つことが出来るようになったのです。

「今までは書店に行くのが嫌いだった。
行っても、マンガや雑誌のコーナーしか寄ったことがなかった。
その自分が、今は、小説や文庫のコーナーで堂々と自分が読みたい本を探している。
自分でも信じられないような進歩です。
嬉しいです。」という生徒の感想を読んだ時は、本当に涙をおさえることが出来ませんでした。
そこには、あの苦しい劣等感に自分の力で打ち克った、有名進学校の生徒と肩を並べて堂々と難しい本を読んでいるという喜びと誇りに満ち溢れていました。

私が楽しく書店に寄ることが出来るようになったのもそれからでした。
見るからにオドオドしていた自分の学校の生徒たちが、堂々と胸を張って書店に出入りする姿を見たくて、わざわざ忙しいのに書店に寄り道することさえありました。
何気なく書店の皆様が目にしているお客さん一人一人にも、実はこのようなドラマが隠されてもいるのです!


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