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『アウト トゥ ランチ』の篠原一さん
インタビュアー 石川奈央子

篠原 一(しのはら・はじめ)
1976年千葉県生まれ。93年桜蔭高校2年在学中に、『壊音 KAI-ON』(文春文庫)で文學界新人賞受賞。現在は立教大学大学院文学研究科ドイツ文学専攻に在籍。専攻はユダヤ学、精神分析史、フロイト。著書に『誰がこまどり殺したの』、『天国の扉』、『きみよわすれないで』(以上河出書房新社)、『ゴージャス』(角川書店)がある。
篠原 一 公式サイト[CABARET du CHAT NOIR]
http://www12.u-page.so-net.ne.jp/xb3/hajime_s/




『アウト トゥ ランチ』
集英社
本体価格 1,600円




『壊音』
文春文庫
本体価格 381円




『きみよわすれないで』
河出書房新社
本体価格 1,300円




『ゴージャス』
角川書店
本体価格 1,300円


石川 今回インタビューにあたって、篠原さんのホームページを拝見させていただいたんです。ネタ帳のように映画や読書の感想などもあって、まるで舞台裏を見せて貰っているようで楽しませて戴きました。
篠原 そうですね。来ていただいた方がいるのに、中身が充実していなければつまらないと思いますから。ただそれだけなんですけどね、CGIが多かったりするのは。CGIはプログラマーのお友達にカスタマイズしてもらってるんです。毎日動いていないと面白くないですから。
石川 日記も面白くて、エッセイ集を読んでいるような感じです。
篠原 『へたれ系日記』って呼ばれているんですけど(笑)、評判いいですね。
石川 〈世界最速の自伝小説〉というキャッチの『ゴージャス』からも窺えますが、デビュー当初は女子高生作家ってことでメディア的にも注目されてらっしゃいましたよね。実はその頃のイメージが強く残っていて、『壊音』に代表されるように、少年がメインに出て、女性は殆ど出てこないという印象が強かったんです。だけどそれだけでとらえていては篠原さんについては語れないなと思いました。特に近作の『きみよわすれないで』では女性が今までとは違う視点で書かれていますし、『アウト トゥ ランチ』も、物語性に富んだ小説で、デビュー当時の作品の特徴も取り込みつつ、さらにたくさんの要素があって、非常にスリリングな読書体験でした。是非多くの方に読んでいただきたいなと思います。
篠原 ありがとうございます。『アウト トゥ ランチ』は、連作短編集なので、掲載開始から本になるまで、結構長い時間がかかっていますね。最初は連作のつもりはなくて、2作書いたら、間があいて、という感じでしたが、そろそろ、本にしましょうよということになって、ダーッと書いてまとめたんです。最初は、日本のインディペンデンス映画みたいな感じで(笑)、サクッと十五分くらいで観られる感じで書こうと思いました。
石川 あ、そうなんですか! とても映画的だなって思ったのですよ。映画お好きなんですよね?
篠原 ええ、そうですね。だいたい年間二百本くらい観ますから--。
石川 二百本ですか! 凄いですね。
篠原 そうでもないですよ、一週間にだいたい四本くらい借りたら、そのくらいにはなりますし。
石川 あ、そっか。ビデオもうまく取り入れて観ればそうですね。でも別にノルマではないですよね。
篠原 観たいのを借りてきたらそうなっちゃうという感じです。でも最初はお勉強チックなスタートだったんですよ。考える素材にするには最低、年間百本は必要だと、担当の教授が言っておられまして。
石川 今は立教の大学院で研究のほうもされているんですよね。研究と創作は重なり合う部分が多いんでしょうか?
篠原 うーん、そのふたつは使っている頭の部分が別々という感じですね。フロイトを専門にやっているんですけど、どうもあのひとの論文を読んでいると恥ずかしいというか、笑っちゃうところも多いんで。自分の思っている訳と翻訳文が違ったり、__例えばマゾヒズムの経済論的問題とか、意味が全然違うのに、何遍もマゾ、経済論、マゾって出てくると困っちゃいますね。
石川 フロイトの研究をなさっていることを初めて知ったのですが、篠原さんの論文も読んでみたいです。
篠原 十年くらいしたらあるといいですね、論文集みたいなやつが。本当は大学の先生になりたかったんですよ。大学教授の父を見て育ってきていますので。時間があって、なんか暇そうでよかったんですよね(笑)。今は大学で研究する時間も必要なので、小説はだいたい年間一冊というペースなんですが、今年はかなり多く本が出るので、来年は少し休みたいですね。
石川 それでもネットでは、常に篠原さんの読書日記やら映画の感想が見られますね。本や映画の趣味はセンスがあってカッコイイなって思いました。
篠原 ええ。あれはテクニックの賜物なんですよ(笑)。
石川 おしゃれも詳しいですよね。サングラスとかお洋服も素敵だし。お気に入りの香水の記述がありましたよね。
篠原 服は――そうですかねえ――いつも変な格好してるんで、教授にも「あ、シノハラが来た」なんて言われていますけど(笑)。香水は一時期凝っていまして。凝ったものはたくさんあるんです。
石川 メールとか掲示板で、読者の方の感想がダイレクトに来るかと思うんですが、影響を受けたりしませんか?
篠原 それはないですね。というか、それほどひとから影響されないタイプなので。
石川 本や映画からのほうが多いんですかね。それとも自分のなかにあるところから、必要なものを引っ張ってくる感じでしょうか。
篠原 うーん、そうですねえ。あえて言えば、物語をつくるうえで一番取り込みたくなるのは、結局フロイトなんです。なにかを解きほぐす作業に惹かれていまして。さっきも言いましたけど、フロイトって書き方が恥ずかしいものがありますから、下手な小説よりよっぽど文学らしいものがあったりしますね。宗教の話とか『文化への不満』とか、彼の言っていることはところどころ転けてたりもしますけど。
石川 こんな古めかしい解釈を言うのは恥ずかしいですが、フロイトっていうと未だに性的な解釈のイメージを持たれているような気がしますので、篠原さんの小説を昔ながらの解釈で読まれると誤解も多そうですが。
篠原 実はそういう解釈ができるようにもしてありますよ。そのわかりやすさ自体は危ないんですが。分かり易いことを疑わないといけないんですけど、わざと置いてあったりもします。ケッと言う感じで、あまり性格は良くないですが(笑)。
石川 近作の『きみよわすれないで』では今までの作品と印象が違うという感想があったそうですね。『アウト トゥ ランチ』ではまた元の路線を継承している印象も受けました。
篠原 自分では『きみよ』も『アウト―』も同一線上にあるものなんです。常に相対するということを考えているんですが、ひとりとひとりがいて相対するときに、個人と個人の壁の越え方についての本が『きみよ――』で、越えないことが『アウト トゥ ランチ』なんですよ。
石川 なるほど。なんか見事にまとめていただいて恐縮です。『きみよ――』では女性の描き方が違ってきている感じもありましたけど、『アウト トゥ ランチ』ではやはり女性は蚊帳の外というか…。
篠原 箱の中ですね。やっぱり「お母さん」は箱に詰めておかなきゃ(苦笑)。従来は「お父さん」だったんですけどね。「お母さん」を詰めて置いた方が得るところは大きいです。
石川 親子関係の点からも『アウト トゥ ランチ』は非常に現代的で、エンターテインメントとしても楽しめて、テレビドラマの原作として使われてもいいなって思いました。
篠原 いやー、是非使ってほしいですね。ジャンルは越えたいほうなんです。『十三夜』という樋口一葉の現代語訳を三人で共著したんです。阿部和重さんと藤沢周さんと。その方々と篠原一という組み合わせは面白いなって思いました。あとホラーの作家で、文章が繊細で、気に入っている乙一さん、彼はジャンプのノベルズから出てきたんですけど、例えば乙一と篠原一という読み方をされてもいいですし。
石川 「メフィスト」とかで篠原さんの小説があってもいいですよね。それにしても死体の描写が迫力ありました。全部想像だと思うのですが、淡々とした感じがやけに、リアルで。
篠原 もちろん想像です(笑)。骨学の本を資料にしています。でも一度後学のためにも見てみたいですね。ホラーやミステリーでも言っていただけたら、どこでも書きますよ。
石川 それでは今後のさらなるご活躍を楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。
5月11日 池袋にて

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