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『かまちの海』 山田千鶴子 著
紹介者 文藝春秋第2出版局・渡辺庸三さん

 
「かまちの母」というヒト
「山田かまちの母」って、どんな人だと思いますか? 編集担当になった私は、「息子を亡くした母」とどう接したら良いか分からず、お会いする前はとても緊張していました。
ところが会ってみると、かまちの母・千鶴子さんは「元気が服を着ているようなお母さん」でした(怒られそうですが…)。
初めての待ち合わせは高崎市の「山田かまち水彩デッサン美術館」。美術館前の駐車場でお待ちしていると、左前の部分がべッコリへこんだ一台の自動車が、ヨロヨロとやって来て止まりました。助手席から女性が降りてきて、ニッコリしながら、 「まぁ、どうもいらしゃいませ! 遠かったでしょう! この人の運転が危なくて、もう大変で! ハッハッハ」
千鶴子さんでした。運転手だったのは夫の秀一さん。二人は私を温かく迎えてくださり、私たちは高崎駅前で和やかに会食。そして懐かしそうに、かまち君の幼少時代の話をしてくださいました。食事をしながら、私は千鶴子さんの人柄に本当にホッとしました。 「あれから二十四年だから、生きていたら四十一歳なんですよね…。早いものね…」
そのふとした千鶴子さんの一言にハッとしました。計算すればすぐわかることなのですが、頭の中で「山田かまち」はずっと”十七歳の少年“だと思いこんでいたのです。そんな感じしませんか?
同様に、この本を読み進めていると、ファンでなくとも、まるで同時代を生きた大事な友達を失ったような感覚になります。原稿の中のかまちは、二十四年前の記憶で書かれたとは思えないほどとてもリアルに描かれているからです。
千鶴子さんはこの二十四年、来る日も来る日も、息子の記憶を頭の中で反芻し続けてきたのでしょう。一見、とても元気そうなお母さんですが、心の中で、その喪失感と闘い、二十四年かけて必死に生み出した大変貴重な一冊なんです。必読デス。

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