トップWeb版新刊ニューストップ

大道珠貴(だいどう・たまき)
1966年福岡市生まれ。福岡中央高校卒業。ラジオドラマの脚本を書き、やがて小説へ。2000年「裸」で九州芸術祭文学賞受賞。今年、「しょっぱいドライブ」が4回目のノミネートで芥川賞を受賞する。「いずれは児童文学にも挑みたい」と語る。著書に『裸』(文藝春秋)、『背く子』(講談社)がある。


受賞作のご紹介
『しょっぱいドライブ』
文藝春秋


>>>著者作品リストへ
 私はだれかの母親でも妻でもないので、わりとやりたい放題の服装やら言動やらをやれている。
「お母さんそんな格好恥ずかしいからやめて」と子供に言われることもない。
「お前たまには外へ出てパートでもして家計を助けたら」と夫に言われることもない。
 朝帰りはするわ、歳下の男の子と酒は飲むわ、中年男性と手をつなぐわ。何日うちへ帰らなくたって、だれもとがめない。気が楽だが、しかし、やはり私はうちが恋しくて帰る。自分流の部屋の構造は、ほうっと落ち着く。
 『しょっぱいドライブ』の実穂は最後には道楽息子のようにふてぶてしくなっている。
あいての九十九という男性は、これから母親のごとく実穂を過保護に世話をすることだろう。
 あの小説は、独身女でありながら道楽息子みたいな、おじいさんでありながら母親みたいな、そのようなひとびとが、やや近親相姦めいた関係を結んだりほどいたりするのである。しかも、あれは心中物語だ。世の中から疎外されたような場所で、ふたり、ひっそり暮らすのだから。別に命を絶たなくても、ゆるやかに確実に死へ向かっているのだから、心中だと私は思っている。
 私のふだんの暮らしも、そのようなものだろう。生きていてたのしいことはそんなになく、しかし悲観してもいない。憂鬱は当たり前。子供のころからこうだった。誰のせいでもない。癖のようなものだ。
 長くは生きられないかもしれない。でもしばらくは生きていよう。そのくらいの消極的な意気ごみでここまできた。たぶんこれからもこのままだろう、私は。で、こんな女がばあさんまで生きていたら、これまた端迷惑でたのしいかもしれない。

Page Top  Web版新刊ニューストップ

書名または著者名を入力  
Copyright©2000 TOHAN CORPORATION