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「目指したのは、演歌よりも、ジャズやロックの似合う時代小説です」−−これは、藤さんご自身の言葉です(ちなみにこれは藤さん直筆!の書店用ポップの一節)。その通り『花残月』は、リズムもテンポもいい時代小説です。
そして『花残月』は、せつない恋愛小説でもあります。もちろん、チャンバラシーンも出てきますが、話の主軸は、四人の男女の恋愛感情です。
主人公であるかすみの、若さゆえのひたむきさと一途な思い。宗太郎の、少し勝手とも思えるかすみへの恋情。かすみのようにまっすぐになりたくてもなれない、お佐江のもどかしさ。遊び人を気取っていても、お佐江を愛している直助……。
藤さんはお佐江が一番好きだと言い、私はかすみの恋心に共感し、男性編集者は自分が宗太郎だったらやりきれない、と言います。多くの時代小説は、物語にどっぷり入り込むことはできても、個々の人物に感情移入することは難しく、それは、侍であれ、町人であれ、想像しかできないところに登場人物がいたからだと思うのです。
『花残月』の登場人物は皆、不器用なまでに恋に悩んでいます。こんなふうに自分自身を重ねて共感を覚えることのできる時代小説は、今まであまりなかったでしょう。
この物語の骨子は、だいぶ以前から、藤さんの中にあったそうです。恋愛は情熱がなければできないと思いますし、小説を書き上げるのも、情熱がなければできません。「思いついてから、その作品を仕上げるまでの心境は、或いは、そうした恋愛感情にこそ、よく似ているかもしれない」と、あとがきにあるように、藤さんの久しぶりの書き下ろし作品である本書は、退廃的で華麗な元禄の恋愛小説であると同時に、長い間、藤さん自身があたためてきた恋心の告白ともいえるのかもしれません。
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