いよいよ、最高の魔法使いダンブルドア率いる正義の騎士団と、闇の帝王
ヴォルデモート一味との戦いの火蓋が切られました。
同時に第五巻では、シリーズの底流となる秘密が明かされます。なぜヴォルデモートは幼いハリーを襲ったのか。なぜハリーはマグルの叔母ペチュニアに預けられたのか。なぜ闇の帝王は執拗にハリーをつけ狙うのか。なぜ、なぜ……。
今巻で、ハリーも十五歳。ホグワ―ツ魔法魔術学校の五年生になります。一段と成長したハリーの活躍で、物語は佳境に入りました。
ローリングの描く良質のファンタジーは、ストーリー展開の秀逸さはもちろん、その文章の持つリズム感にも特徴があります。掛け合いのごとくテンポよく踊りだされる軽妙な会話、じっくりしっとり、諄々と諭すような会話、鮮やかな情景描写。文字ばかりの版面がさまざまな表情を持っています。こうした原著の魅力を、少しも損なわずに日本語で再現しようと腐心しているのが松岡訳です。横のものを縦にするだけでなく、見事に登場人物の個性を光らし、そこここに張り巡らされた言葉遊びの罠をかい潜って、原著の細かい襞まで再現に成功しています。ですから、「ハリー・ポッター」における編集者の仕事は、著者の描く世界と翻訳者の工夫の邪魔をしないことが第一です。
この二人の労作をより輝かせるための編集者としての工夫は、決められた従来の編集技法や常識的な用字用語にとらわれずに、文字と言葉を自由奔放に使うことです。そうすることが、個性溢れる登場人物をよりいきいきと動かし、文面に表情を加えます。場面場面によって、表意文字としての漢字の威力を発揮させます。ひらがなの柔らかさに期待します。カタカナのシャープな音を聞かせます。求めるところは読みやすさと臨場感です。
著者と翻訳者、二つの才能が日本語版ファンタジーを生みました。編集者としての醍醐味を感じさせてくれるこの本を、有名なシリーズだからでなく、白紙で一度読んでいただきたいものです。
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