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「これはとんでもない本に違いない」四年前、ロンドンの女性編集者に「ぼくと1ルピーの神様(原題『Q&A』)」を薦められたとき、そう感じたのを今でも鮮明に覚えている。わたしの拙い英会話能力などお構いなしに、その女性編集者は物凄い勢いでこの小説の魅力をまくしたててきた。でも、あれほど彼女が興奮していた理由がいまなら分かる。わたしだって、この本の魅力を誰彼かまわず、まくしたてたい。
舞台はインドの都市ムンバイ。主人公の少年ラムは逮捕された。クイズ番組で全問正解し、史上最高額の賞金を獲得したのが逮捕の理由だ。孤児で無学の少年がなぜ難問に答えられたのか? 不正を働いたのか? その謎が解明されていくにつれ、明らかになっていく少年の過酷な人生。貧困にあえぐ最底辺の生活のなかで彼が目にしてきた殺人、強奪、虐待──それら一つひとつの苦難が、偶然にもクイズの答えであり、他に選びようのなかった、たった一つの人生の答えだった。並みの人間ではすぐにへこたれてしまいそうな状況下であっても、主人公ラムはたくましい。持ち前の知恵とユーモアで苦難を乗り越えていく姿は、とにかく痛快だ。貧富の差の激しいインドという国で生き抜いていく強い生命力、クイズの答えとラムの人生が符合していく面白さ、そして予想外の結末。原稿を読みながら私は何度も涙し、物語にただただ圧倒された。
さらにこのサクセスストーリーは、たんに物語のなかの話ではなくなった。無名の作家のデビュー作が、いまや世界41ヵ国で読まれ、映画化された後にアカデミー賞ほか映画賞を総なめにし、世界中を虜にするまでに成長した。日本だって例外ではない。小部数からスタートした本書は口コミで広がり、次々と版を重ねている。まるで主人公ラムのように、この本はたくましく成長しつづけている。
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