今年2009年は太宰治生誕100年にあたり、関連図書の出版や、作品の映画化(「斜陽」初夏公開、「ヴィヨンの妻」「パンドラの匣」秋公開予定)など、太宰の世界に注目が集まっています。そんな中、四字熟語という今までにない角度から太宰に斬り込み、その新しい魅力を開拓しようという、異色の太宰文学案内書の登場です。
太宰の作品から四字熟語の用例を、異なりで540語、のべ1150例採集した中から、今回は81の熟語を取り上げました。言及した太宰作品は60を優に超えています。
著者の円満字氏は言います、「太宰は四字熟語をよく用いただけでなく、その用い方には、自虐的な誇張表現からユーモア・ペーソスに至るという特色がある」と。
たとえば、「天変地異」。子どもが石に糸をつけて引きずっているのを、「私」はそうとも知らず「石塊がのろのろ這って歩いているな」と思います。太宰はこれをなんと「天変地異」と表現しました。『晩年』の巻頭を飾る『葉』で使われたものですが、著者は「この「天変地異」については、単なる誇張と受け取るだけでは済まされないものを、ぼくは感じる」と言い、「自意識がどうしようもなく肥大化しているからこそ、世界は逆に小さくなり、すべてが物憂く感じられるのではないだろうか。」と、深く分析しながら作品を読み解いてゆきます。
「周章狼狽」(富獄百景)、「邪智暴虐」(走れメロス)、「他人行儀」(津軽)、「寸善尺魔」(ヴィヨンの妻)、「冷汗三斗」(人間失格)等々。四字熟語を語り、そこから太宰の作品論を展開、新しい太宰ワールドに私たちを誘ってくれます。
全体は4章で構成され、作品の発表年代順で配列されているので、太宰の文学的な生涯を概観できるようになっています。また、各章の最後に置かれたコラムも実に楽しい。「太宰がよく使う四字熟語」「太宰と漢文の素養」「おすすめ四字熟語小説」「誤用か創作か?」と、漢和辞典の編集に長年従事してきた著者ならではの情報も満載。
索引を利用して、好きな太宰作品から読んでもよし、興味を持った四字熟語から読むもよし。太宰ファンを自認している方も、まだほとんど読んだことがないという方にも。太宰治をこよなく愛する著者からの、心を込めた読書案内。ぜひ読んでほしい一冊です。
|