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「新刊ニュース 2012年2月号」より抜粋
秦建日子(はた・たけひこ) 1968年生まれ。小説家・脚本家・演出家。早稲田大学法学部卒業後、会社員を経て劇作家つかこうへい氏に師事。97年より専業の脚本家として活動。脚本を手がけた作品に、連続テレビドラマ『天体観測』『最後の弁護人』『ラストプレゼント』『87%』『ドラゴン桜』『ジョシデカ!』『左目探偵EYE』『スクール!!』、映画『チェケラッチョ!!』などがある。2004年『推理小説』で小説家デビュー。同書は06年に『アンフェア』として連続テレビドラマ化、映画化され、ベストセラーに。この度、河出書房新社より『ダーティ・ママ、ハリウッドへ行く!』を上梓。本年1月より、『ダーティ・ママ!』シリーズが原作の連続ドラマが放映開始となる。 |
── 子連れシングルマザー刑事の丸岡高子と新米刑事の長嶋葵のコンビが活躍する『ダーティ・ママ!』はどのような発想から生まれたのでしょうか。
秦
僕の友人がシングルマザーになったことが出発でした。彼女から「子供を産んだけれど男が逃げたので今から裁判をおこす」と連絡があり「そ、それは大変だね」と、会いに行って話を聞きました。大変な状況とは裏腹に友人が充実しているというか、エネルギッシュというか、活き活きしているというか、幸せそうというか、以前知っている友人より魅力がパワーアップしていたんです。その頃あるテレビ局から「刑事ドラマを作りたいから一緒に企画を立てられないか」と提案を受けたんです。僕は友人の影響でシングルマザーの物語が書きたくなっていて、刑事がシングルマザーの物語ならテレビ局の要望に応えられるし書きたいものも書けると思ってスタートしましたが、程なくその企画が頓挫してしまいました。しかし僕の中では丸岡高子というシングルマザー刑事のキャラクターが誕生して居座っていた。そんなときに河出書房新社さんから小説の依頼があり、アイディアを話すと寛大なお心で出版してやらんこともないと言われ(笑)、やっと世に出すことが出来ました。そしてありがたいことにこの度、別のテレビ局から『ダーティ・ママ!』を元にドラマ化してやらんこともないと言われ(笑)、一月期の連続ドラマに決まりました。しかも高子役の永作博美さんは、高子を書くときにイメージしていた女優さんなので幸運でした。とても幸せなひと回りをしましたね。
── この度、続編『ダーティ・ママ、ハリウッドへ行く!』が上梓されました。執筆の経緯を教えていただけますか。 秦 第一作を書いたときから続編を考えていました。高子の息子・橋蔵の出生の背景も最初から設定してあったんです。前作が三編の連作短編でしたので続編も連作にしようと考えていました。が、書いているうちに一つの物語がどんどん長くなってしまい、方針を切り替えて長編小説に変更するまで試行錯誤が長かったんです。様々なアイディアを投入しながら書き進め、各章立てのタイトルを洋画の大作映画から持ってくると決めた頃から急に書きやすくなってスムーズに運んでいきました。 ── 『推理小説』に始まる「刑事 雪平夏見」シリーズのシリアスなトーンを変えて、コメディにシフトした理由は何でしょうか。 秦 第一作の執筆が雪平の長編小説を書いた後だったので、同じタッチのものを書くつもりはなかったんです。楽しく読めて、読後が痛快なものを書こうとしました。だから長編小説ではなくてサクッと読める連作短編となりました。 ── 丸岡高子は犯人逮捕の為なら手段を選ばず賄賂や強請も厭わない人物です。 秦 実際の刑事も本当は皆この位はしているのではないかと想像しながら書いているんですけど、どうなんでしょうね(笑)。高子のような口の悪い人は好きですし、書きやすいです。雪平もそうですが、型破りな女性像に思い入れがあるのでしょうね。書く上ではシングルマザーの方に何人もお会いして話を伺い、そこから頂いている挿話が幾つもあります。 ── 高子とコンビを組む葵はどう発想しましたか。 秦 高子がこれだけカッ跳んだ人なので相棒までカッ跳んでいると収集がつかなくなる。ある種等身大の子にしようと考えていたんです。だけど目論見と違って物語が進むなかでどんどんパワーアップしていっちゃいましたね(笑)。 ── 『〜ハリウッドへ行く!』は、さながらハリウッド映画のように大乱闘や銃撃戦など面白さを凝縮した展開ですね。プロローグから度肝を抜く見せ場で出発します。 秦 プロットを作らずに書きはじめてしまい、何度も直しを重ねて苦労しました。 ![]() ── 刑事課の仲間もコメディーリリーフ的な笑える人々ですね。 秦 先ず主人公の女性二人を考えて、麻布南署刑事課の刑事たちを設定していきました。女装趣味の石橋鑑識官とかが強烈ですけど、リアルな場面とカッ跳んでいる場面双方あると思います。舞台は六本木や乃木坂ですが、あくまで小説なので、現実とは場所の描写や距離感が違っていいと考えて書いています。 ── 今作ではフラットキャラクターだった筈の人物が物語の中で成長して驚きました。 秦 連続ドラマの脚本では、主人公しか動かなかったり成長しないお話では全十話が持たないし、サイドの役者さんも楽しくないと思っているので、小説でもさりげなく少しずつ変化を入れるような癖があるかもしれません。鑑識の石橋にちょっとかっこいいシーンが出てきたり、交通課の合コンクイーンの由香にえっ?という設定が明るみになったり、そんな効果は狙いたいですね。雪平夏見のシリーズでも、例えば平岡朋子という脇役の巡査がどんどん成長していきます。 ── 終始コメディのトーンで進みますが、物語の後半、高子が児童相談所の職員から他人に見せない暗部を指摘されますね。 秦 高子の奥底にある内面を、名前も付けられていない点景の人物に思いもよらない形で言われて激高するんです。そういうことを言って他人を判ったような気になる人が多い、と考えて書いた場面でもあります。 ── 経歴には「劇作家のつかこうへい氏に師事」とありますが、秦さんにとってつか氏はどのような存在ですか。 秦 つか先生は僕の中では北極星のような人です。常にぶれずに輝いていて、その存在を中心に夜空が回っている方です。 ![]() ── 秦さんは『推理小説』で小説家デビューをする前に『天体観測』や『ラストプレゼント』など、多数の人気ドラマの脚本を書かれています。小説と脚本の書き方の違いを教えていただけますか。 秦 基本的に小説は最初から最後まで自分で責任を持ち完結させるものですが、脚本は集団で創作する上での設計図です。脚本は演出家の方や役者さんが膨らませた方がいい部分があり、あえて踏み込まずに余白を残して書きます。デッサンはするけれども色までは塗りこまない、というような。ガチガチに指定したものを渡すと逆に他の方がやりにくかったりモチベーションが上がらなかったりする。脚本でどこまで指定してどこから委ねるかはいつもバランスを考えながら書いています。そのスタンスの違いがあります。小説と脚本、どちらが上だとか下だとかという種類のものではありません。 ── この度『ダーティ・ママ!』のドラマが放映開始となりましたが、どのような関わり方をしていきますか。 秦 僕のクレジットは原作ですが、ドラマスタッフの一員として、脚本の会議に頻繁に参加して事件のアイディア出し、台本にする上でアドバイスをしています。二冊の原作では連続ドラマ全十話に足りないので、オリジナルの事件や設定を考えたりしているんです。一話完結で犯人逮捕の回もあり、前・後編で事件捜査が行われることも考えています。やはり刑事ドラマとはいいながら、高子の認知裁判の行方や、葵と恋人の卓也の恋愛の行方など縦線の強いドラマになる予定です。 ── 今後の予定はいかがでしょうか。 秦 まずは今回の『ダーティ・ママ!』のドラマを成功させたいです。それから七月期の連続ドラマが決まっていて、既に脚本の執筆に入っています。小説はオファーを頂いていますが、脚本の間を縫って書くことになり出版社には待って貰っています。『ダーティ・ママ!』シリーズ第三弾の構想も既に決まっています。出版の時期は未定ですが楽しみに待っていて下さい。 (十二月一日、東京都渋谷区・河出書房新社にて収録) |
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