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『夢をかなえるゾウ2 ガネーシャと貧乏神』の水野敬也さん
インタビュアー 津田ジョン(ライター)


「新刊ニュース 2013年2月号」より抜粋

水野敬也(みずの・けいや)

1976年愛知県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。処女作『ウケる技術』が30万部超えのベストセラーに。三作目の著書『夢をかなえるゾウ』は200万部を突破。作家活動以外にも、恋愛体育教師・水野愛也としての講演DVD『スパルタ恋愛塾』がある。また、DVD『温厚な上司の怒らせ方』の企画構成・脚本や、漫画『LOVE理論』の企画・原案を手がける。著書に『四つ話のクローバー』『「美女と野獣」の野獣になる方法』『大金星』などがある。この度、飛鳥新社より『夢をかなえるゾウ2 ガネーシャと貧乏神』を上梓。

夢をかなえるゾウ2 ガネーシャと貧乏神

  • 『夢をかなえるゾウ2 ガネーシャと貧乏神』
  • 水野敬也著
  • 飛鳥新社
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人生はワンチャンス!─「仕事」も「遊び」も楽しくなる65の方法

  • 『人生はワンチャンス!─「仕事」も「遊び」も楽しくなる65の方法』
  • 水野敬也、長沼直樹著
  • 文響社
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夢をかなえるゾウ

  • 『夢をかなえるゾウ』
  • 水野敬也著
  • 飛鳥新社
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四つ話のクローバー

  • 『四つ話のクローバー』
  • 水野敬也著
  • 文響社
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「美女と野獣」の野獣になる方法

  • 『「美女と野獣」の野獣になる方法』
  • 水野敬也著
  • 文藝春秋(文春文庫)
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大金星

  • 『大金星』
  • 水野敬也著
  • 小学館
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雨の日も、晴れ男

  • 『雨の日も、晴れ男』
  • 水野敬也著
  • 文藝春秋(文春文庫)
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── 二〇〇万部を超えるベストセラーとなった『夢をかなえるゾウ』の出版から五年が経った今、二作目を書かれた理由は何でしょうか。

水野  本を書くというのは、自分の中に溜まったものを吐き出す作業です。前作が出たあと、自分の中がすっからかんで、しばらく続編を執筆する気にはなりませんでした。その間、別の作品を書いたり、若い書き手を育成して編集者的なことをしてみたり、いろんなことに挑戦してきました。新しい経験を積むうちに、『夢をかなえるゾウ』は自分のライフワークだし、次を書いてみたいなと思えるようなったのが、二年ぐらい前だったんです。

── ライフワークということは、これからもシリーズ化していくのですか。

水野 そうですね、「5」ぐらいまではいきたいなと(笑)。今回は前作からの五年間に経験したことも、内容にかなり反映されています。前作が出たばかりの頃の自分には、絶対書けないような話になっています。

── 今作の主人公は会社員ではなく、お笑い芸人ですね。お笑いの世界をモチーフにしたのはどうしてでしょう。

水野 前作はさえない会社員が一歩を踏み出すまでの話でした。今回は、その一歩を踏み出した人がどうなるのか、というところを描きたかったんです。自分も若い頃、ストリートパフォーマンスみたいなことをしていて似たような経験がありましたし、主人公が芸人だとガネーシャとの絡みがさらに面白くなるんじゃないかと考えました。ガネーシャが「リアル・ゴッド・オブ・コント」に出場するための相方を捜しに来たという設定にして、そこから世界観を広げていけるので、お笑い芸人がいいだろうと。「表現したい夢を追い始めた人の不安を取り除いてあげる」というコンセプトを、もっとも体現できるのが芸人という職業だったということです。

── 物語のテーマである「お金」も、やはり水野さんご自身の体験から着想されたのでしょうか。

水野 そうなんです。前作が売れて、印税が一気にワーッと入ってきたんですよ。僕はもうびっくりして、結構「ビビり」なので、ここでお金を使って遊んだらダメになると思い、編集者に頼んでホテルに缶詰めにしてもらって、しばらく篭もって原稿を書いていました(笑)。その後、自分で出版社を立ち上げてお金がどんどん出ていくようになって、ようやく平常心に戻れたんです。そうした経験から、今度は「お金」をテーマにして、もう一回読者の皆さんを楽しませたい、驚かせたいという気持ちが出てきたんです。人が夢を追い求めるときに一番不安になるのはお金だと思うんです。お金がなければ、生活のために夢を諦めることもある。僕は25歳で無職になって、週二回だけバイトしながら本を書いていました。でも夢を追っている時って、貧乏な生活の中でも面白い出来事や発見があるし、そういう不安にも結構耐えられます。自分の経験から発見した、そういった価値観を書きたかったんです。

── 今作は本文中に課題を明示しないなど、前作と異なる形式になっています。

水野 いろいろな捉え方があるでしょうけれど、前作は小説の形を借りた自己啓発本という見方が多かったと思います。今回は自己啓発がテーマではあるけれども、見た目も中身もほぼ小説です。最初は課題も文中に書いていたんですけど、そのたびにせっかくの人間ドラマを何か醒ましてしまう気がして、全部巻末にまとめました。ただ実用性もこの本にとってすごく大事なものなので、「あそこに出て来た話は、実はそういう課題だったのか」と、ひと通り全部読み終わったあとに改めて気づいて、自分の実生活に生かしていけるという、ちょっと違う自己啓発のアプローチになっています。

── 物語の内容自体も、前作とはちょっと変わった印象を受けますね。

水野 一番違うのは、主人公でお笑い芸人の勤太郎と、貧乏神である幸子のラブストーリーになっているところでしょうか。実はこの形に行き着くまで、13回も書き直しました。もちろん全部ではなく途中の三章とか五章までですが、そのたびにいろいろな人に読んでもらって意見を聞きました。その過程で、人間が夢をかなえる時の三つの不安、「お金」「才能」「年齢」に対して、それぞれの不安を抱えた三人の主人公を立てて書き始めたんです。人に読んでもらった感想を聞くと、その中のお笑い芸人の勤太郎に、僕の内面が一番深く投影されていたからか、「もっとあいつの話を出してくれ」という要望が多かった。そこで、やっぱり勤太郎とガネーシャの話がメインになるべきだなって気づいて、それからは一気に書けました。

── それで、ガネーシャのほかに、貧乏神や死神など、さまざまな神様が登場するんですね。

水野 それまで出てきたアイディアの結集です。例えば2回目に書いた話で、すでに死神は登場しているんですよ。ガネーシャがタバコを取り出したら命のローソク≠ナ火を点けるとか(笑)、そういうキャラだったんです。病気なんだけど夢をどうしてもかなえたい人が主人公で、死≠テーマにしていたのですが、読んでもらったら「話が暗い」という意見があってやめました。でも、その時の主人公と死神の要素は生かしてあります。いつも最初からパン!といかず、ゴールまでの道があるとしたら、全部の道を通ってみて「これはやはり違う」ということを確かめるタイプなので、毎回遠回りしています。

── 今回はストーリー上、ガネーシャよりも貧乏神のほうが存在感があるような気がします。

水野 やっぱり貧乏神がちょっと目立っちゃいましたよね(笑)。でも自分としては、あくまでガネーシャがメインだと思っているので、常に主人公と要所要所で絡みながら、最後にバシッと決めてくれる。そういう物語にはしたいとずっと思って書いていました。

── 貧乏神のキャラクターは、誰か実際にモデルがいるのでしょうか。

水野 僕がこれまでに出会った女性のいろんな良いところを合わせているので、一人というわけではありません。自分の実体験もあるし、こういう人がいたらいいなあっていうのもあるし。多分、勝手な願望も入っていると思うんですけど、男性から見た女性の理想型なんです。だから、逆に女性読者が、読んでどう感じるのかなというのはちょっと怖い(笑)。ただ、事前に女性に読んでもらった限りでは、すごく楽しんでくれていましたけれど。あと、ネタばれになるから詳しく言えませんが、貧乏な時代に支えてくれた女性が、売れた途端に…という話がよくありますよね。その結末も、自分としては描きたかった部分のひとつです。

── 同じタイミングで『人生はワンチャンス! ─「仕事」も「遊び」も楽しくなる65の方法』が発売されました。可愛らしい犬の写真に格言のような一言が添えられていて、裏に偉人のエピソードが載っているという、自己啓発本としては『夢を─』とは全く異なるアプローチになっています。

水野 これはもともと僕が育成していた若者の一人、長沼直樹君の企画です。僕は部屋に自己啓発的な貼り紙を貼っていますが、他人が見たら若干引くだろうな、恥ずかしいなと。でも、可愛い犬の写真に一言が書いてあると、それが緩和されるんじゃないか。そこから発想してできた企画です。ですから、狙ったわけではないのですが、たまたまこれが実用形式の自己啓発本、『夢を─』が小説形式の自己啓発本になりました。

── 大ベストセラーの第二弾ということで、売れるかどうかのプレッシャーはありましたか。

水野 正直あまりなかったですね。なぜかと言うと、いろいろな人の意見を聞いて直しまくっていますから、正直どういう反応が来るか、ほぼ分かっているわけです。例えばネットの評価で星一個がついたらこんな意見が来るだろう、みたいな。自分の中では過去最高傑作だと思っていますが、他人の評価ですから、当然賛否両論になると思います。でも自分としては、もうこれしかないという想いで、やり切った感じがすごくあります。今までにいろいろ考えすぎて、他人の意見を恐れる力もない、何を言われても「はい」って頷くくらいのカロリーしか残ってないというのが正直なところです。

── 読者の皆さんに、ここを読んでほしいというところはありますか。

水野 今回書かれている教え≠焉A実は前作同様どこかで聞いたことある王道のものばかりです。でもそれを改めてこういう物語の形で振り返ったら、また違った形で自分の中で腑に落ちるんじゃないかと思います。それと、やはり何よりも愛すべきガネーシャの言動を楽しんでもらいたいですね。今回もギャグの部分はかなりこだわって作りこみましたし、相変わらずいろいろとひどい≠アとをやらかしています。それを覗きに、ぜひガネーシャに会いに来てほしいですね。

(十一月二十九日、水野敬也氏のオフィスにて収録)