 |
 |
万城目学(まきめ・まなぶ)
1976年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。化学繊維会社に勤務ののち、『鴨川ホルモー』でボイルドエッグズ新人賞を受賞。同作は10万部を超えるベストセラーに。2007年『鹿男あをによし』で直木賞候補となる。著書に『鴨川ホルモ−』、『鹿男あをによし』がある。 |
|
 |
『ホルモ−六景』
角川書店
 |
 |
『鴨川ホルモ−』
産業編集センター
 |
 |
『鹿男あをによし』
幻冬舎
 |
|
 |
―― 万城目さんのデビュー作『鴨川ホルモー』は、《千匹のオニを引き連れ、京都市内で戦争ごっこ》をする〈ホルモー〉のサークルに入った京大生を描いた小説でした。このたび上梓された『ホルモー六景』は、『鴨川ホルモー』のスピンオフ的な短編集で、前作に登場した人物の外伝や新たな人物の物語など、六編の小説を収録しています。
万城目 『鴨川ホルモー』では、学生のままならぬ日常や、サークル内のゴタゴタを書きたいと考えていました。でも、それだけでは面白くならないので、物語に〈ホルモー〉を絡めることにしました。陰陽道風の味つけをしていますが、すべて虚構の世界なんですよ。
―― なぜ、この競技を〈ホルモー〉と名づけたのでしょうか。
万城目 名前を聞いても、内容がわからないものをと考えました。〈ホルモー〉というのは響きがいいし、〈モー〉とのばすと清々しいかなと(笑)。言葉はダサいけど、読者の心をとらえがちなのではないでしょうか、たぶん。
―― 身長二十センチで四頭身、襤褸を纏って頭部は茶巾絞りという姿をした「オニ」は、どのように造形されたのでしょうか。
万城目 オニをどう描こうか悩んでいたとき、食料品売り場で茶巾絞りのお菓子を目にして、「これを顔にしたらええやん」って(笑)。下手につくり込むと陳腐になるし、茶巾絞りと書けば読者に詳しく説明しなくてもイメージが伝わりますから、そこからアイデアをもらいました。
―― それでは『ホルモー六景』についてお話をうかがいます。今回はどの作品も恋愛が共通のファクターになっていますね。
万城目 男女の恋の話を書こうという狙いがありました。『鴨川ホルモー』の作品世界は、オニの存在が強調されがちですが、実は面白おかしい若者の様子を伝えたかったんです。『鴨川ホルモー』を書き上げた時点では、続編の予定はなかったのですが、半年ぐらい経ってから、こんな短い話はどうかなといくつか考えるようになりました。そんなときに「野性時代」編集部から小説連載の依頼があり、ホルモーの世界観を借りて恋の話を書くことにしました。
―― 第一景の「鴨川(小)ホルモー」は、京都産業大学の「定子」と「彰子」のモテない二人の友情と決裂、そして和解の物語です。
万城目 前作を読まれた方もホルモーを忘れているかもしれないし、初めて読む方にも理解していただくために、イントロダクションとして入学してからのサークル活動をダイジェストで触れてみました。自分の中でも、京都大学以外のサークルではどんな活動をしていたかに興味があって、それを書いたら面白いんじゃないかと思いました。
―― 彰子が製造した「流しそうめんマシーン空母」が、鴨川を渡ってくるユーモラスな場面には笑ってしまいました。
万城目 男の阿呆は『鴨川ホルモー』で書いたので、今回は女の阿呆に挑戦してみました(笑)。定子も彰子もままならぬ若者なんです。
―― 次の「ローマ風の休日」は、前作に登場した「楠木ふみ」が、アルバイト先のイタリア料理店で出会った高校生とデートをする物語です。
万城目 『ローマの休日』に楠木さんの話をミックスしました。店の名前が「ann,s cafe」でアン王女とかけています。楠木さんは前作では唐突な行動が多く、少しクセのある女の子でしたけど、内面ではいろいろなことを考えている、まっとうな子なんだということを書きたかった。
―― プレイボーイの店長の名前が「在原」など、登場人物の名前は歴史上の人物から借りてきているんですね。
万城目 京都に由来のある人とちょっとでもイメージがかぶれば、使ってみようと目論んでいました。実は第一景で登場した定子と彰子は、一条天皇の奥さん二人なんです。まぁ、オタク的な小ネタです(笑)。
―― 第三景の「もっちゃん」は、もっちゃんという青年の恋の行方と彼自身のその後を追った物語です。万城目さんは小説の中にある仕掛けを施していて、最後の一行まで作品を堪能できます。
万城目 まさに京都が舞台ならではの物語です。この第三景と第六景は、最初に構想した作品です。準備期間が長かったこともあり、じっくりと練ってつくることができました。
―― 次の「同志社大学黄竜陣」は、前作に登場した芦屋の昔の恋人「山吹巴」をフィーチャーした物語です。
万城目 『鴨川ホルモー』とリンクする部分が多くて、前作を読んでいる方は、一番楽しめるエピソードだと思います。同志社大学を出すだけでは物語として弱いので、芦屋と巴の話、また、明治期の著名人を登場させて、物語に奥行を出しました。編集の方には「サービス精神が旺盛ですね」と言われました(笑)。
―― 第五景「丸の内サミット」では、なんと舞台は東京へ移ります。会社員の男女四人の合コンだったはずが…。
万城目 詳細は言えませんが、まさしくサミットだったわけですね。京都で書くことがなくなってしまったので、舞台を東京に移しました。でも後先を考えずに風呂敷を広げてしまったので、今後の展開に課題を背負ってしまいました。
―― 第六景「長持の恋」は、立命館大学の「珠実」がアルバイト先の料理旅館に置いてあった長持を使って、時空をこえた文通をする物語です。
万城目 発想として、古い長持などを使って手紙のやり取りをするイメージがありました。そこに前作に登場した「高村」を絡めたら面白いかなと考えました。自分でもいいプロットだと思ったので、熱くなるのを抑えて慎重に書き進めました。
―― 読み進めると、高村は意外な役割を担っているんですね。
万城目 小説を書く上で、情報を隠す楽しさというものがありますよね。あざとくならないように、気をつかいながら書きました。
―― 神社だけでなく、白川通や百万遍の交差点など、京都に実在する地名が多数登場します。都市小説としての面白さもありますね。
万城目 大学も実名ですし、場所はリアルに設定しました。『鹿男あをによし』でも実在する地名をあげています。その方が自分も書きやすくて、実際に道や場所をたどりながら書きました。
―― 舞台は京都なのに、交わされる言葉は共通語ですね。
万城目 関西弁だと「今から面白いことを言うぞオーラ」が出てしまい、案外マイナスです。面白いことを言うときは、話す人は笑ってはいけません。仏頂面で真面目に馬鹿を喋るから、落差があって笑えるのではないでしょうか。
―― 万城目さんは「ボイルドエッグズ新人賞」を受賞して、作家デビューをされました。
万城目 二、三年無職の状態で、・小説を書いては応募・の繰り返しでした。二十八歳になり、お金も尽きかけ、最後の作品として「鴨川ホルモー」を書きました。ほとんどの新人賞には下読みの方がいますから、僕の作品が落選しても、その人の読みが悪かったと「言い訳」することができました(笑)。でも「ボイルドエッグズ新人賞」は選考委員全員が応募作品を読んでくださったので、その上での落選なら諦めもつきます。そんな理由がありました。
―― 万城目作品の面白さは「奇想」と「笑い」だと思います。これは、万城目さんご自身の資質ではないかと思うのですが。
万城目 おかげさまで『鴨川ホルモー』は多くの方に読んでいただけました。自分の得意なことを、読む人が楽しんでくれるのは嬉しいことです。習作時代に書き方や文章スタイルは試行錯誤をやり尽くして、これしかないという思いでデビューしたので、当分は作風を変えるつもりはありません。
―― 今後のご予定はいかがでしょうか。
万城目 四作目の雑誌連載が始まりました。今度は鹿が喋ったり、オニが出てきたりはしません(笑)。大阪が舞台で『プリンセス・トヨトミ』という題名です。僕の作品は、いつも内容がわからないタイトルをつけているんですよ。
|
|