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「さおり&トニーの冒険紀行」の小栗左多里さん
インタビュアー 石川淳志(映画監督)
「新刊ニュース 2009年12月号」より抜粋
「“マンガで伝えられること”を考えて描いた冒険紀行」

さおり&トニーの冒険紀行『ハワイで大の字』『イタリアで大の字』『オーストラリアで大の字』のシリーズは、小栗左多里さんとトニー・ラズロさんの爆笑海外ルポ。シリーズ3作を中心に、ロングセラー『ダーリンは外国人』など他の著作のお話も伺います。

小栗左多里(おぐり・さおり)
1966年岐阜県生まれ。多摩美術大学デザイン科卒業。95年に女性コミック誌『コーラス』(集英社)でデビュー。漫画家・桜沢エリカ氏のアシスタントを務める。2002年、外国人の夫・トニー・ラズロ氏との生活を描いたコミックエッセイ『ダーリンは外国人』がベストセラーとなる。主な著書に『ダーリンは外国人』@〜A『ダーリンは外国人 with BABY』(メディアファクトリー)、「さおり&トニーの冒険紀行」シリーズ『ハワイで大の字』『イタリアで大の字』(ヴィレッジブックス)、『めづめづ和文化研究所 京都』(情報センター出版局)などがある。2009年7月『オーストラリアで大の字 さおり&トニーの冒険紀行』(ヴィレッジブックス)を上梓。


『オーストラリアで大の字 さおり&トニーの冒険紀行』
小栗左多里、
トニー・ラズロ著
ヴィレッジブックス

『イタリアで大の字 さおり&トニーの冒険紀行』
小栗左多里、
トニー・ラズロ著
ヴィレッジブックス

『ハワイで大の字 さおり&トニーの冒険紀行』
小栗左多里、
トニー・ラズロ著
ヴィレッジブックス

『ダーリンは外国人 1〜2』
小栗左多里著
メディアファクトリー

『ダーリンの頭ン中 英語と語学』
小栗左多里、
トニー・ラズロ著
メディアファクトリー

『ダーリンは外国人with BABY』
小栗左多里、
トニー・ラズロ著
メディアファクトリー

『めづめづ和文化研究所 京都』
小栗左多里、
トニー・ラズロ著
情報センター出版局
『プチ修行』
小栗左多里著
幻冬舎(幻冬舎文庫)
『英語ができない私をせめないで!』
小栗左多里著
大和書房(だいわ文庫)

普通の人の暮らし
を知る旅


── 「さおり&トニーの冒険紀行」シリーズの魅力は小栗さんとトニーさんが外国を観光するだけでなく、現地でさまざまな体験をする点だと思います。個性的なガイドブックであり、読後はその土地を旅行した気分にもなれますね。誕生の経緯を教えてください。


小栗 出版社から私とトニーの二人で海外の紀行文を書かないかとお話をいただいたのが始まりなんです。最初から写真は使わずに私がマンガを描くことは決まっていました。どんな内容にしようか検討しているときに観光スポットや名所は絵で描いても写真には敵わない、ではマンガで伝えられるものってなんだろう≠ニ考えて、いろんな体験をして私の感想やトニーのリアクションを伝える、と方向が決まりました。海外に関しては観光やショッピングの情報はあふれているのに、文化や歴史など、その先は自分で調べてみないとわからないことが多いんですね。

── 準備から取材までの流れはどのようなものだったのでしょうか。

小栗 編集担当者が日本でインターネットなどいろいろなところから情報を得て、取材場所を絞り込んでいきました。トニーが英語のサイトを見られるので独自にネタを見つけてくることも多々ありましたよ。大変だったのは情報の見極めでした。マンガのネタになる面白い体験をしなければならないんです(笑)。現地に行っての一発勝負だから、より多くネタを提供してくれる地元のコーディネーターを見つけるのも苦労しました。中には途中でやめてしまった人もいました。私たちの要求が厳しかったんでしょうね。私がコーディネーターだとしても怒っただろうと思うようなことも、お願いしていましたから(笑)。でもすごく良い方にも巡り合いました。
 予定は主に編集担当者が組んでくれました。彼女はある場所で取材して次の場所に移動する、その組み合わせが上手でいつも私たちが最小限の労力で済むように配慮してくれました。取材時はいつも現金を腰に巻いて行動しているので大変だったと思います。

── 体験取材の秘訣などありましたら教えてください。

小栗 他のガイドブックに書いていないような、普通の人の暮らしに関係していることを知りたいと考えました。その国について、違う角度から見てはどうかという提案になっていたら嬉しいです。取材期間はハワイ、イタリア、オーストラリアすべて一ヶ月程かけました。イタリアでのスケジュールが一番厳しく、一ヶ月の滞在中、移動・取材が続いて一日も休みが取れなかったんです。そうすると取材をこなすことが目的になってしまうんですね。でも最終的にはマンガにして、面白いレポートをするのがゴールなんです。トニーは疲れてくると顔が恐くなるので(笑)、マンガ的に面白いことが起こるように積極的に行動して欲しいとお願いしました。

── どのような体制で取材を行ったのでしょうか。

小栗 取材のとき、私はメモを持っていて「印象や気持ち」を書き留めます。トニーはレコーダーで録音し、ビデオカメラでも録画しています。「オーストラリア」のときは別の本の締め切りがあって、取材から時間が経ってから書き始めたのですが、食べた物の味を忘れてしまって思い出すのに苦労しました。このシリーズではマンガのエピソードの合間にトニーのコラムが入ります。読むと、あの出来事から彼はこんなことを考えていたんだ、と後から驚かされます。

── 以前に行った事のある国はありましたか。

小栗 ハワイは観光で行ったことがあります。海があり常夏のリゾート地としてしか見てなかったんですが、取材を通じて文化や歴史、食べ物など発見が多かったです。もっと知ってみたいなと思いました。ハワイでは一人で美容室に入って髪をカットしてもらい、美容師さんと簡単な英語で話したりもしました。ハワイの英語は日本人との会話が慣れているのか聞き取りやすいし、話しやすいんです。オーストラリアの英語は発音が違うので全然わかりませんでした。

── 『ハワイで大の字』は二十六万部が売れ、続編『イタリアで大の字』が発売となりました。2つ目の国はなぜイタリアだったのでしょうか。

小栗 次にどこへ行くかは迷いましたが、そもそも私がイタリアに興味があったし、トニーにとってはお母さんがイタリア人で縁のある国だったので行けるときに行こうと思って決めました。でもイタリアを実際に取材してみると、歴史が深すぎて知れば知るほど手に負えなくなりそうな国でした。たくさん取材したのに一ページしか描けない場所もあり、もったいなかったです。一つの取材に半日から一日かけて、多いときで三ヶ所取材をしました。現地に行ってわかることもあるし、天候や作物の状況で取材できるかも左右されました。

── 三冊目はついに南半球のオーストラリアですね。

小栗 オーストラリアはハワイと似たイメージがあったんですが、調べていくと動植物が個性的で面白い国だったんです。ペリカンやカンガルーなどの動物を描くのに苦労して、写真やビデオを何十回と見ました。カンガルーは真剣に描いても下手に見えてしまうんです。でも本物もマンガに描いたのと同じような格好をしているんですよ。駱駝や馬に乗る体験をしましたが、これも描くのが難しかった! 人を三頭身や四頭身で描いているので、ほぼリアルな動物とのデフォルメのバランスに苦労したんです。
 イタリアまでは実際に体験したことだけを載せてきましたが、オーストラリアでは「オパールの採掘」など、面白い情報は体験していなくても描くようにしました。人々が地下で暮らす街「クーバー・ピディ」や世界最古の藻類・ストロマトライトがある「ハメリン・プール」など、スケジュールの関係で泣く泣く断念した場所もあります。

── イタリア編で少し登場したお二人の子供・トニーニョちゃんは現地に同行したものの、漫画には登場していませんね。

小栗 現実問題として、トニーニョがまだ小さくて「体験」に参加できないという理由がありました。それに私の中では育児作品とほかの作品は区別したいと思っています。子供が可愛い仕草をしたからといって、他の人から見たらそれは特別なことではないので。子供が参加することで面白さが半減するようなら避けたいですね。
 今までトニーニョを中心に書いたのは『ダーリンは外国人 with BABY』だけですが、あの一冊だけにしようか、もう少し描き続けようか迷っています。もし『ダーリンは外国人』シリーズの続きを描くのならば、子供のことは欠かせないのですが、トニーニョが大きくなったらどうしようかな、と。『with BABY』では、彼に許可無く描いてしまって申し訳ないなと思っていますし。

お互いに感謝の
気持ちを持つ


── 累計二三五万部を売り上げた『ダーリンは外国人』には、トニーさんとの文化や個性の違いが面白く描かれていますが、同時に人と人とが理解しあうことの本質が描かれていると思います。

小栗 他者と価値観が一緒だと心地いい人もいるでしょうし、個性が違って新鮮な方が面白いと考える人もいるはずです。私とトニーの場合は一緒であってほしい根本のようなところが共通していたので、いいなと思いました。その上で、同じものを見ても全く違うことを考えていたりするのが一々面白くてあきません。トニーと二人のときは喧嘩をすることがなかったんですが、子供が生まれると多くの家庭と同じように意見が違って話し合いをします。

── 『ダーリンは外国人』はついに映画化が決定しました。

小栗 実は最初、書名を『ダーリンは異星人』にしてほしいと希望していたんですが、編集部からフィクションと勘違いされると言われてしまいました。八千部からスタートした本が、七年かけて読者に支え続けてもらえたことに感謝しています。先日映画の撮影現場を見学しました。大勢のスタッフが動いてくださっているところを見るとやはり感慨深いものがありました。ただ、映画はフィクションの部分が多いですね。二人がつきあうようになるまでの過程とか。本に描いてあること以外は全部フィクションですよ(笑)。

── 『プチ修行』という著作には「内観」の体験ルポがあります。この修行を通して、トニーさんに対し「とても感謝している」と言いますね。

小栗 彼にはいろんな面で感謝しています。『ダーリンは外国人』というマンガを描けたことも、それを許してくれたことも、生活が楽しくなったことも、子供ができたことも、旅行に行くときに便利なのも(笑)、たくさん感謝しています。お互い感謝しあっているし、「ありがとう」と言いあうようにしています。

── 『英語ができない私をせめないで!』というご著作もあり、小栗さんの作家性には、パートナーや、外国、英語などへの「好奇心」があるのではないでしょうか。

小栗 好奇心はあると思います。でも体力と知力がややついていかないのでボチボチやりたいです。これからも、もっと勉強してみたいなと考えています。

── 今後の執筆の予定はいかがでしょうか。

小栗 デビュー当初描いていた、ストーリーマンガを描きたいという気持ちがあります。コミックエッセイをたくさんの人に読んでもらえて感謝していますが、『ダーリンは外国人』以前に一人でやってきたことを突き詰めてみたいんです。すべての仕事をトニーと一緒にやりたいとは思っていないし、二人一組と見られるのは本意ではありません。私自身の世界をもう少し構築できたらいいなと考えています。それから「さおり&トニーの冒険紀行」は、以前から行きたいと思っていた「タイ・ベトナム」の旅が実現したら嬉しいですね。楽しみにしていてください。
(九月一日、東京・渋谷にて収録)


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