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【対談】普遍的な「怪談」文化の魅力

「新刊ニュース 2010年9月号」より抜粋

「怪談レストラン」「学校の怪談」をはじめ、数々の怪談を発表されている常光徹さん。多くの怪談実話を本にまとめ、今はホラー作家としてご活躍中の平山夢明さん。「怪談」をライフワークとされているお二人に、普遍的な「怪談」の魅力をお話しいただきました。
国立歴史民俗博物館教授 常光徹
1948年高知県生まれ。民俗学者。国立歴史民俗博物館教授、総合研究大学院大学文化科学研究科教授。73年國學院大學卒業後、91年まで東京都の公立中学校教員を勤める。90年、教え子に聞いた怪談を基に『学校の怪談』(講談社)を発表。同作はベストセラーとなってシリーズ化され、同シリーズを原作とした映画が4作品作られるなどの社会現象を巻き起こした。96年より子供向け怪談シリーズ「怪談レストラン」(童心社)を著者の1人として執筆。同作は2009年にアニメ化され、今年8月21日より実写とアニメを融合した映画が公開される。現在、日本民俗学会、日本口承文芸学会等の会員。著書に『しぐさの民俗学 呪術的世界と心性』(ミネルヴァ書房)、『口承文芸の研究1 学校の怪談』『口承文芸の研究2 伝説と俗信の世界』(角川ソフィア文庫)など多数。
作家 平山夢明
1961年神奈川県川崎市生まれ。学生時代はホラー映画の自主制作に熱中。自動販売機の営業、コンビニ店長、ライター、映画・ビデオの企画・製作と様々な職歴を経て作家となる。94年にノンフィクション『異常快楽殺人』(角川ホラー文庫)を発表して注目を集め、96年に『SINKER―沈むもの』で小説家としてデビュー。「実話怪談「超」怖い話」、「東京伝説」、「怖い本」、「怖い人」など、怪談各シリーズで活躍するかたわら、小説も多数執筆。06年短編小説「独白するユニバーサル横メルカトル」により、日本推理作家協会賞短編部門を受賞し、同タイトルを冠した短編集(光文社文庫)が『このミステリーがすごい!』2007年版国内部門1位となる。10年『ダイナー』(ポプラ社)で第31回吉川英治文学新人賞最終候補、同作にて第28回日本冒険小説協会大賞を受賞。
常光徹さんの作品
『幽霊屋敷レストラン』
松谷みよ子責任編集、たかいよしかず、かとうくみこ絵、怪談レストラン編集委員会編
童心社
『呪いのレストラン』
松谷みよ子責任編集、たかいよしかず、かとうくみこ絵、怪談レストラン編集委員会編
童心社
『闇のレストラン』
松谷みよ子責任編集、たかいよしかず、かとうくみこ絵、怪談レストラン編集委員会編
童心社
『心霊写真レストラン』
松谷みよ子責任編集、たかいよしかず、かとうくみこ絵、怪談レストラン編集委員会編
童心社
『真夜中の学校レストラン』
松谷みよ子責任編集、たかいよしかず、かとうくみこ絵、怪談レストラン編集委員会編
童心社
『怪談レストランナビ 霊・魔・妖』
松谷みよ子他文
たかいよしかず、
かとうくみこ絵
童心社
『学校の怪談 K峠のうわさ』
常光 徹著
講談社(講談社文庫)
『学校の怪談 百円のビデオ』
常光 徹著
講談社(講談社文庫)
平山夢明さんの作品
『ダイナー』
平山夢明著
ポプラ社
『恐怖実話集
いま、殺りにゆきます
RE-DUX』

平山夢明著
光文社(光文社文庫)
『独白する
ユニバーサル
横メルカトル』

平山夢明著
光文社(光文社文庫)
 

どうして子どもは「怪談」に夢中になる?

平山 
常光先生は「怪談レストラン」や「学校の怪談」シリーズで随分たくさんの怪談を書いていらっしゃいますね。 

常光 「学校の怪談」は今年でシリーズ創刊20周年を迎え、今年も新しい本が発売になりました。「怪談レストラン」は共著ですけれども、全50巻という大きなシリーズです。

平山 50巻もあるんですか! すごい人気ですね。映画にもなるんですか。

常光 シリーズ50巻と「怪談レストランナビ」が3巻出ています。昨年アニメ化され、この夏に実写とアニメを合わせた映画が公開になります。

平山 「怪談レストラン」というタイトルもいいですよね。メニューがてんこ盛り!!

常光 このシリーズは児童文学作家の松谷みよ子さんや私を含めて、十数人の著者が共同で書いていまして、このタイトルは松谷さんが命名したんです。「怪談」と「レストラン」というのは、面白い組み合わせですよね。 
 

平山 このシリーズに入っている作品は実話の採録ですか?

常光 基本的には昔から伝承されている話をもとに作品化したものが、1冊に12〜13話入っているんですよ。

平山 なるほど! 先生は昔から色々な怪談を集めているんですか?

常光 学生時代に、伝説や昔話を集めて東北や能登地方を旅していたのですが、卒業後に中学校の教員になり、忙しくて調査に行く時間がなくなってしまった。そんなときに当時から知り合いだった松谷さんに「あなたの足元の伝承を見つめてみたら」と言われたんです。それが
きっかけで、放課後の教室で学校を舞台にした妖怪話、怪談話、不思議話を生徒から聞き始めました。

平山 ああ、わかります。ウチの学校にもありました。二宮金次郎の銅像が歩いたり、夜の音楽室でピアノが流れたり、自分の死相が踊り場の鏡に映るとか…。

常光 よくご存知ですね(笑)。最初は取るに足らない話だと思ったのですが、分析してみるとなかなか面白い。学校にまつわる怪談というのは、特別教室やトイレなど学校の特別な空間に集中している傾向があるんです。子どもが朝から晩まで生活をする普通教室には怪談があまりない。

平山 あ! 本当だ。いわれてみると確かにそうですね。なぜだろう? 自分がいつもいる場所の怪談を話すというのは、本能的に嫌なんでしょうかね?

常光 音楽室へ行くとピアノがあってベートーヴェンの肖像画が貼ってあり、理科室には人骨の標本があって独特の薬品臭さがある。音や匂いなど感覚に訴えるものは、一日のほとんどを過ごす普通教室にはないんですね。特別教室には非日常的な、ある種の異界的な感覚があるのかもしれない。

平山 今は警備が厳しくなりましたけど、昔は夜、学校へ行くこともあって、そのときにお化けを見たっていう…。


常光 「学校の階段は夜になると段数が違う」という怪談は、大抵「忘れ物を取りに夜に学校に行ったら…」という導入ですよね。子どもにとってリアリティがあるから余計に面白いんだと思います。

平山 そういった怪談は子どもたちの間であっという間に広まりますしね。

常光 学校が生み出すある種のストレス、緊張感を「お化けが出た」というような妖怪騒ぎの中で解消している側面があるのでは。子どもだって表向きの真っ白い部分だけではやっていけない、それに見合った闇の部分を子どもなりに抱えて生きていかないと、バランスが取れないと思うんですよ。それに、学校という皆がいる場の話を共有することは、仲間意識や連帯感を高めていくプロセスでもあるんです。

平山 僕の場合、最初に真剣に怖い話をしてくれた人は小学校の先生でした。梅雨時の授業中に突然「今日はお化けの話をしましょう」と言い出しまして、話が盛り上がったところでいきなり黙ったんでどうしたんだろう≠ニ思ったら、でっかい声で「お前だ!」ってやったもんだから、女の子が「ギャー!!」って(笑)。普段真面目な先生の違う面を見たようで、二重の意味でドキドキしましたね。それがきっかけで怪談が好きになったんです。

常光 「学校の怪談」を出した当時、教師の中からは「非科学的だ」という意見も出たのですが、実は教師が怪談を広めていることも多いんですよ。では、平山さんが怪談に関わるようになった最初のきっかけは、学校の先生?

平山 そうなりますね。その後、つのだじろう先生の『うしろの百太郎』や『恐怖新聞』、中岡俊哉先生の『恐怖の心霊写真集』とはまって、ずっと怪談を集めていたんです。それで大人になってライターをしていたとき、『「超」怖い話』っていう怪談実話をまとめている人に「あなたも書いたら」と言われて、怪談の仕事を始めた。でも、怪談の威力ってすごいっすね。子どもを手なずけるには一番いい。怖がらせりゃとりあえずは「先生ってすごい!」ってなるじゃないですか。

常光 臨海学校などで怪談を語って聞かせると、子どもが集まってくるんですよ。逆に言うと、子どもたちの想像力を上回るような話をしないとダメ(笑)。

平山 僕も子どもに怪談を話すんですが、奴らものすごく真剣な顔をして聞いているんです。途中で「これ以上しゃべるとヤバいから止め」なんて言うと、「え〜! 終わっちゃうの?」「話して話して!」って。


「怪談」という文化が大切な理由とは



常光 ところで、子ども同士で肝試しをやるとか、あるいは自然の中で遊ぶとか、そういう「体験」をするということはね、想像力を育てる上で非常に大事なことだと思うんですよ。例えば年齢の違う子と遊ぶ、喧嘩するという体験の中で、人間関係の距離の取り方を身につける。

平山 昔は地方にも若衆宿の機能≠ネんかがあって、ある程度の年になるとそこへ突っこまれるんですよ。そこで自分より仕事のできる兄貴分の話を聞いて、ある種のイニシエーション的な洗礼を受けるわけですけれど、今はそういうことはないですからね。今の学校では社会の中でどう機能的に動けばいいかという知識は教えても、自分の「体験」を通して学ぶことはなかなか身につかない。

常光 僕が子どもの頃に川に行った時、魚釣りのうまいおいちゃんがどんな餌でどんな仕掛けを使っているか、子どもながらにじっと観察して技を盗むわけですよ。それが大事なことなんですね。目の前の出来事を見て、好奇心とそれを満たすための創意工夫と想像力が養われる。そういう経験は今なかなかできない。

平山 未知の何かを知りたいという好奇心は人間の本能であって、それがあらゆる知識活動の原点になっていると思う。怪談の対極にあるような科学ですら、極論すれば、わかっているその先にある、何だかわからないことを探りたいと研究している訳で。

常光 その好奇心、想像力を育てる上で、怪談を話す、読むということも、実はとても効果的で大切なことだと思う。子どもは誰でもそうですけれども、ある時期になると「人が死んだらどうなるか」ということを真剣に考える。あの世はあるのか、火の玉は飛ぶのかとか。学校の教員は、そういう話は非科学的だからと受け入れない傾向がややあるんですが、未知のものを想像し、言葉で語るという面で、怪談は想像力を豊かにする素晴らしいものだと思いますね。

平山 自分の思考、知識の及ばないものに接したときにどういう区別と判断をしていくか。これらをちゃんと小さいときに学んでおかないと、大人になってから巧妙なトリックに引っ掛かり騙される可能性があるようです。近頃は公園へ行くと、子どもが4人集まっているのに、黙って携帯用のゲームをずっとやっている。そういう子どもって目の前で起こる生の「体験」にコロっと転がっちゃうんですよね。頭が良くてきっちり勉強している子に、目の前で簡単な手品をやっただけで、大尊敬されたことがあったんです。そういう子には、ぜひどんどん怪談を読んでほしいなあ。

常光 科学の研究にしても、平山さんが書かれている小説にしても、想像する≠ニいうところで根っこは同じ。非科学的なものを排除し過ぎたせいで、そういう想像の世界と現実との距離の取り方がわからない人が、増えているのではないかと感じるんですよ。しかし「怪談レストラン」がこんなに人気だということは、子どもたちの想像力もまだまだ育っていきますよ。怪談や妖怪を楽しんで、豊かな大人になって欲しいですね。

(五月二十六日、東京・乃木坂の大沢オフィスにて収録)

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