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「生」(いきる)柳 美 里著
紹介者 小学館「週刊ポスト」編集部・飯田 昌宏さん

 
ベストセラーを超えて
 大反響を呼んだ『命』『魂』に続くシリーズ第三弾となるこの『生』は、同時進行に近い形で書かれた前二作と異なり、作品中の出来事からほぼ一年が経過した時点で連載されたものである。
 しかし、柳さんと話していると、そして原稿を受け取ってみると、時間の経過は柳さんの精神の傷跡を少しも癒していないことを痛感した。柳さんは「この作品を書くことは、ようやく血が凝固して瘡蓋になったものを、自分ではがして、傷を確認するような作業でした」と語っている。
 本来そんな作品の執筆を依頼することは、いかに私がスキャンダリズムをもって成る週刊誌の編集者とはいえはばかられることなのだが、柳さんは、締切の設定についても、描写の徹底についても、「自分を追い込んで欲しい」と要求した。そんな作家の苦闘を見ているのは、正直、辛い作業でもあった。
 しかし、毎週毎週、瘡蓋をめくるように、あるいは生爪を剥がすように一枚一枚とファックスされてくる原稿が、こうして一冊にまとまってみると、整然と物語を構成していることに驚く。とりわけ本作は、文芸作品としての深度が深いと思う。
 結局、「私記」と銘打って刊行されたこのシリーズも、柳さんにとっては、他の小説と位置づけは変わらない「作品」なのである。そして、「事実」に寄りかかることなく、「小説家としての力量が試される一冊」と渾身の力で執筆された。
柳さんは、「わたしの代表作のひとつ」と言う。その作品を担当できたことを誇りに思う。だが、それ以上に、この作品に流れる時間と、執筆の過程を間近に見ることができたことは、単純に僥倖とか貴重な経験といいきれない、編集者として頭の芯がしびれるように重い記憶である。

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