去年の秋口からデザイナーの北村武士さんに、装丁などいろいろお世話になっていて、ほかの本の打ち合わせ中に『オブジェクトグラス12』の話を聞きました。著者は人形作家で写真家の石塚公昭さん。石塚さんとは最初に出版された『乱歩
夜の夢こそまこと』(パロル舎)がご近所付きあいしている版元から出たり、その担当編集者と私が親しくしていて、またその縁で本の中で一部ウチの事務所を撮影で使ってもらったりで何かと接点はあったのですが、そのあとゆっくり話す機会もないままでした。
前作は江戸川乱歩自身が自作の世界に紛れ込むといった構成でしたが、今回は十二人の作家の人形とその作家たちに対する独特な思いを、石塚さんが自作の人形を自分で撮影した写真をメインに創作過程のエピソードと合わせて展開していくもの。北村さんからその話を聞いてすぐに飲み屋でお会いすることになりました。石塚さんは物静かな方ですが、アルコールが入ると俄然舌が滑らかになり、人形造りや撮影について、作家にまつわるいろんなエピソードを披露してくれました。なかでも谷崎の小説のモデルになっている女性に実際に会って人形を見せたときの話。その女性は「アラ、似てないわね」と一言、が、むしろ石塚さんはその一言にジンと痺れてしまった、という話をいい顔で話してくれました。その後も持参した三島の人形を前に三島論を展開するなどかなり熱気を帯びて酔いも深まり、帰る頃にはウチで出版することが決まっていました。
本造りは石塚さんとデザイナーの北村さんで全体の構成をしていただき私は脇でボーっとしていただけでしたが、いま出来上がった本を前にして「いい本になったなー」とひとり悦に入っているところです。
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