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「じつは、わたくしこういうものです」
クラフト・エヴィング商會著、坂本真典写真

紹介者 平凡社 別冊太陽編集部・竹内 清乃 さん

 
不思議な仕事人
 クラフト・エヴィング商會というナゾめいた作者。
 彼らは架空の書物や架空の機械の解説書、パッケージなどを超リアルに作り、「当商會で取り揃えている商品」として紹介するという、不思議な本を送り出している。熱心なファンがいて、特に若い女性たちに人気がある。つい、「本当にこういうのがあるのかもしれない」と思わせる精密な手法と、話のオチの洒落たユーモアに、毎度病みつきになってしまうようなのだ。
 そして私もその一人。当時、月刊誌「太陽」の編集をしていて、念願の連載をお願いしたのだった。何をやりましょうかと相談すると、
「今度はモノではなくて、人でやりたいんです」とのこと。
えっ、ヒト? とぼんくらな私はすぐにわからなかったが、彼らは人の顔と仕事、この二つに並々ならぬ興味と敬意を持っていて、そこからひらめくものがたくさんあったのである。
 かくして不思議でステキな仕事人ファイルが生まれていった。月光密売人、秒針音楽師、地暦測量士、冬眠図書館のシチュー当番……。
 まさかとは思ったが、編集部へ「仕事人たちの連絡先を知りたい」という問い合わせが次々に来たのである。連載前に作者と「本当にいると思ってもらったらうれしいけど、まさかねえ」と言ってはいたが。月光密売人なんて、かなりとんでもないものではないか。そのうえ、「取材したいので何とか連絡先を教えてください」という電話があったときは、心からうれしくなってしまった。
 その後、「月刊太陽」は休刊したのだが、一年以上たった今でも、まだ読者から問い合わせが来ている。これは、本当にすごいことだ。
 ちなみにクラフト・エヴィングとは、稲垣足穂の著作に出てくる性科学者の名前。足穂へのオマージュとして命名したという。
 彼らこそ、実在する不思議な仕事人である。

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