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「凶鳥の黒影 中井英夫へ捧げるオマージュ」 本多正一監修
紹介者 河出書房新社 文藝編集部 尾形 龍太郎さん

 
「憧れ」の作家たちが「憧れる」人

 本書の監修者・本多正一さん(中井英夫さんの著作権継承者)と知り合ったのは二年ほど前のこと。「孤独すぎる怪人」という中井さんの評論を『文藝別冊 江戸川乱歩』に再録させていただく件で連絡したのが切っ掛けだった。
 その時、電話ごしの本多さんの言葉は、いまでも覚えている。
「尾形さんは、中井英夫という作家を知っていますか?」
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 『虚無への供物』との出逢いの日がいつだったかを考える。
 大学生だったことは間違いない。それまでの読書歴を覆すような感動、そしてまた、その感動を共有すべく貸した友人から「よくわかんねーや」と言われ、ムッとしたことまでも鮮明に記憶している。
 一九九四年、中井英夫がこの世を去ったその翌年、大学一年生だった私は『虚無への供物』と出逢った。これは作り話でも何でもなく、おそらくそれまで書店で目にする機会があまりなかったからであろう。その証拠に、『虚無への供物』の著者の作品を探しに、神保町の古本屋街まで行ったのを覚えている(たしか、どの書店も『虚無〜』以外は置いていなかったはずだ)。
               ※
 あれからちょうど十年。
 そしていま……本多さんからの問に答えるとすれば、
「私にとって『憧れ』の作家たちが『憧れる』人、それが中井英夫です」
 東京創元社から刊行されている文庫全集をはじめ、新装版『虚無への供物 上・下』(講談社文庫)など、当時に比べて読者が中井英夫に触れられる機会も多くなってきた。
 「憧れ」の作家たちが描く「憧れ」の世界を通じて、少しでも中井英夫という作家の魅力に触れていただければ幸いです。


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