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「筒井康隆漫画全集」 筒井康隆 著
紹介者 実業之日本社 コミックス編集室 山田隆幸さん

 
奇才漫画家の作品を完全復刻

 筒井康隆さんが漫画を描いていたことは、熱心なファンならご存知だろう。自分の小説を基にした8ページのショートコミックが中心で、これは『筒井康隆全漫画』として一冊にまとめられ、のち文庫にも収録された。それをなぜ今、復刻したかというと……。
 実は私の本職は漫画の編集者で、3年前『コミック伝説マガジン』という雑誌を作っていた。これは「名作コミックの復活」をテーマにしたコミック誌で、いろいろなヒット作の続編が中心なのだが、漫画以外に何かコラムをと考えて浮かんだのが、恐れ多くも筒井さん。「かつて漫画家だった時代を振り返る」趣旨の連載エッセイを依頼し、引き受けていただいたのだが、これが文壇の人気作家はもちろん、手治虫、永井豪など漫画界のビッグネームが登場する魅力的な回想録となり、毎回刺激的で面白い内容だった。
 残念ながら雑誌の方は短命に終ったが、さらに加筆していただき、筒井さんの全漫画プラス自己解説風エッセイという構成で、『筒井康隆漫画全集』として一冊にまとめることになった。全一巻でも全集は全集だ。しかも諸氏の協力で、これまでどの本にも収められたことのない貴重な1ページ漫画などが見つかり、お宝原稿として収録することもできた。
 あらためて読み返すと、70年代の空気が漂う、実に鮮烈なタッチだ。筒井さんは「漫画が本職でない分、せめて丁寧に描いた」と回想しているが、確かに一コマ一コマの密度が濃い。さながら一コマ漫画が延々と続いているようで、校正にも普段より時間がかかってしまった。漫画の校正が専門なのに。孝橋淳二氏によるド派手なカバーは、筒井さんも大満足の様子で良かった。ただひとつ不安なのは、これを読んで、筒井さんに新たな「漫画」の原稿依頼が来ないかということ。おだてられるとつい引き受けて、久々に新作を発表してしまうかも。そうすると「全集」と謳った立場がなくなるのでは、と心配……。


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