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ある日の編集会議で、「その道の達人の聞き書きのシリーズがつくりたいね」。誰かがいいだしました。「いいねー」「誰の話が聞きたい?」
「わたし、てるりんに聞きたい!」
沖縄の音楽が好きなので、一度はお会いしたい人がてるりん、つまり照屋林助先生でした。北中正和さんが照屋先生の聞き書きをしているという噂を小耳にはさんでいたので、私は失礼なことに北中さんに電話しました。「聞き書きを本にしたいんですけど」と。北中さんは笑って「みずず書房(『てるりん自伝』98年に出版)に決まっているんですよ。それなら、藤田さんに会ってみたら」と、本書の構成者藤田正さんを紹介してくれたのでした。藤田さんとは、音楽雑誌『Bad
News』の編集長で、ミュージックマガジン時代に竹中労さんや朝倉喬司さんの本をつくっていた、あの藤田正さんでした。藤田さんとは、『沖縄は歌の島 ウチナー音楽の500年』もつくることができました。
沖縄の芸能の重鎮、そんなイメージの照屋先生ですが、私の前に立ち現れたのは、もっとずっと大きな存在でした。沖縄文化の象徴のような・・・・・・。ご自分の体験と文化的背景を無理なく結びつけながら、私たちが近代化の中で失ってしまった、人としての生き方について語って聞かせてくれました。
どのエピソードも面白いのですが、沖縄の独立について語っているところは、こんな時代に胸に響きます。よその国の顔色ばかり窺っている日本がまず、沖縄よりもはやく自立すべきだ。島民の生活の安定が確保されていないのに、独立は現実ではない。その間は独立ごっこをして遊びなさい、と。それでコザ独立国の大統領になられたのですね。
質問をしても答えはストレートに返ってきません。あらぬ方向からポーンと返ってくる、ある種の韜晦さが、照屋先生の遊びなんだなと思います。いろんな意味で出口が見えないところに私たちはいますが、私だけ、ではなく誰にも居心地のよい生き方を、この本はきっと教えてくれますよ。
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