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「散骨」 高須基仁 著
紹介者 光文社 ノベルス編集部 穴井則充さん

 
エロスと暴力と哀憐の世界

 「エロスと暴力の旗手・タカスモトジの衝撃の初小説!」――編集をしていて、オビの惹句にはいつも頭を悩ませるのですが、この『散骨』の場合は、「これしかない!」という感じですんなりと決まりました。そのキメの言葉の前は、「一九六八年一〇月二一日、夢の島で調達した三〇本の丸太をかかえて、防衛庁の正面ゲートへの突入をはかった高須武闘派六〇人――」という、国際反戦デーに凝縮される高須さんの人生の核心的なシーンです。ヘアヌード仕掛人として、ある種スキャンダラスな香りとともに世上お馴染みの高須さんですが、あの独特の物腰と微笑の向こうにこんな人生を背負っていたのか、というのが、作品を読んだ、まず第一の感想でした。
 「女の心は縛れない。だから、せめて体くらいは縛りたいものだ」。これは、高校一年の高須少年に緊縛のエロスを教え込んだ映写技師・山口富行の言葉です。二宮尊徳思想を伝承する「報徳社」と同じ町内で育った高須少年がエロスにいかに目覚め、大学紛争で騒然とした東京でいかに闘ったか。そして、何に涙したか。けっして美文とは言えないゴツゴツと粗削りの文体が紡ぎ出す物語はきわめて映像的で、高須さんの中に棲む「異相」を――淫乱と凶暴と不義と放蕩を――読む者の胸にずっしりと伝えます。
 しかし、この『散骨』は果てしなく哀しい物語でもあります。緊縛の「エロス」と、人間関係としての「暴力」を描ききって、物語はいつも「哀憐」の世界に堕ちていきます。『散骨』というタイトルは、死んでしまった女たちに、行方知れずの男たちに、そしてタカスモトジを生かした「あの時代」に手向けられた高須さん流の愛情です。
 見本ができた日に、高須さんはこんなことを言いました。「いやあ、自分で読んでいて、あるところにくると泣けてくるんだよねえ」。ケダモノ・高須基仁を、忘八者・高須基仁を、そして女衒・高須基仁を泣かせた、その「あるところ」は、私の胸にも沁み入ったシーンでした。

本書に収載した七編の短編は「小説宝石」(二〇〇〇年二月号ほか)に掲載されたものです。


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