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『山頭火 漂泊の生涯』
村上護
紹介者 春陽堂書店 編集部 永安浩美さん

 
捨身懸命の文学

 俳人・種田山頭火は放浪の俳人≠ニいうキャッチコピーがつけられ、何度かのいわゆる「山頭火ブーム」でもてはやされてきた作家である。文芸欄だけではなく、社会状況の流れの中でその特異な生きざまがマスコミで騒がれてきた。小社も全集、全句集、文庫と出版し、その片棒を担いできたのかもしれない。
 没後60数年経った今日では、「人はなぜ山頭火に魅かれるのか…」というだけではなく、山頭火の本質を正面から論考する必要があるのではと考え、山頭火研究の泰斗・村上護氏に2冊の本の出版をお願いした。〈句の解説本〉『山頭火名句鑑賞』(4月刊)と〈評伝〉『山頭火 漂泊の生涯』である。
 いまは山頭火の真価が問われる時期に来ている。一過性のブームは過ぎ去る。ここで改めて、山頭火の生涯とは何だったのか、句作と人生は彼の中でどう共存していたのか、じっくりと考えてみるときである。
 著者・村上護氏は、よく「青春の思い出に山頭火がある」と話す。二十代前半、旅先で山頭火の句集に出会って以来、山頭火に魅かれ、彼の足跡を調べ始めた。
 村上氏の山頭火研究は全国を歩き回り、実地踏査をし、ゆかりの人たちを探し、聞き書きをして積み重ねてきたものである。その足で書いた評伝といえる。その距離と時間は山頭火といい勝負である。その説得力のある論考は山頭火研究の出発点であり、現在にいたっても彼の書く評伝が決定版といわれている所以である。
 最後に村上氏は次のようなことをいっている。「山頭火の境涯は捨てて捨てて、どこまで捨てられるかを試すかの生き方であった。時には命までも捨てようとしたが、どうしても捨てきれないで最後まで残ったのが俳句ではなかったか」


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