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「あちこち草紙」
土肥あき子句と文
森田あずみ
紹介者 未知谷 編集・発行人 飯島 徹さん

 
愛おしさ故に勧める本

この一文を認めることは愉しい。語ろうとし、紹介しようとするこの本を愛おしく思うからだ。「水温む鯨が海を選んだ日」この国語の教科書にも採用されている大胆な一句を代表句とする土肥あき子さんが著者である。通常著者と著作物は一体の如く考えられている。その意味からは土肥さんを慕わしいと曲解することも可能だし、それが事実とすれば社会的な齟齬も出来するだろう。だが幸い、土肥さんは猫にまつわる五十句を詠み、そのそれぞれに付かず離れずの随筆五十篇を執筆されているが、そこに動物画を得意とする森田あずみさんの猫の絵五十余態がコラボレートされている。森田さんの猫を観る視線には明らかに愛が感じられる。つまり一点一点が好ましいのだ。その上、この本には「まえがき」の形でしか参加して居られないが、一匹の迷い猫に出逢って二十三年のキャリア生活を捨て、人生の歩みを換えた間山周子さんが影の立役者として存在する。お二人の句・文・絵は、間山さんが主催した猫に関する情報誌『ねこいち』の人気連載コラムだったのだ。場を与えて見守る者、テクストを作る者、絵を描く者、三者それぞれの猫に対する思い入れが錯綜し、螺旋状に一体化して上昇昇華したものが本書の内容ということになる。跋を寄せて下さった清水哲男さんも類似することを書いて下さっているが、句と文と絵の絶妙なバランスが何とも言えなく良い。見開き二頁で一つの世界が確立されて居り、それを句→文→絵、句→絵→文、絵→句→文、絵→文→句、文→絵→句、文→句→絵とそれぞれ一回ずつにしてもこれだけ多様に楽しめる。順番を代えることでそれぞれが微妙に共振して姿を変えて迫ってくる。二頁で限り無く楽しめるのだ。それが春夏秋冬、一年を貫いて五十鼎、何とも贅沢な話である。編集者としてこの環の中に入り込めた幸い故に、この本が愛おしいのである。皆さんにもこの環に踏み込んで、大いなる幸いを味わって頂きたい。


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