イチオシ!何度も何度も目頭が熱くなった
直木賞受賞作『悼む人』の主人公・坂築静人が綴った日記、という形式の小説である。『悼む人』の世界をより深く辿ることができると同時に、同作品の序章として読むこともできる。なによりも、味わい深い小説なのだ。天童さんは、日々、報道などで目や耳にした死者たち一人一人に心をとめ、そこに作家的な想像力を加えて、短いけれど研ぎ澄まされた掌編小説を次々と生み出していく。その一篇一篇からは、人の死の重さがしみじみと感じられるとともに、民話のような温もりと感動も伝わってくる。そして、珠玉の掌編に刺激されるように、静人の周辺にも魅力的な人物が登場してきて、物語もダイナミックに動き出す。『悼む人』が死をめぐる物語であるとともに深い愛の物語でもあったように、『静人日記』も切なく哀しい愛の物語へと変貌していくのだった。 |