イチオシ!天性の物語作家が本領を発揮した力作
昨年、『ダブル・ファンタジー』で柴田錬三郎賞、島清恋愛文学賞、中央公論文芸賞を受賞した村山さんの最新作。「僕が死んだら、その灰をサハラに撒いてくれないかな」。パリの旅行代理店に勤める緋沙子は、弟の遺言を叶えるため、モロッコへと旅立つ。同行するのは、弟の友人だった浩介・結衣という若い男女と、ゲイで資産家である中年のフランス人男性。この四人のモノローグに、ガイドのサイードや死んだ弟の声も入り交じって、一人一人の心の中にあるわだかまりを照らし出していく。『ダブル・ファンタジー』では圧倒的な官能描写と濃厚な恋愛ドラマが話題を呼んだが、『遥かなる水の音』では、うってかわって人間心理の機微をていねいに描いていく。そして、クセの強い登場人物たちが、お互いに影響し合いながら「何か」をつかみ取るラストは美しい。 |