イチオシ!エンタテインメントとして一級の恋愛物語
時の流れに取り残されたような木造二階建ての下宿アパート。まかない付き下宿の日常は、一見、心休まるユートピアのようにも見える。しかし、よくよく眺めていくと、一人一人の過去には、レイプ、DV、失恋など、暗い影があることがわかってくる。そういう傷跡を抱えながら、他人との繋がりをひたむきに求めていく住人たち。その結果、いい関係を結ぶことができた人も、そうでない人もいるが、誰しも、自分の傷跡を担うべき荷物だと自覚して生きていく。章ごとに、語り手や語り口が変わってゆくので、そこから人々の秘められた過去、望み薄い恋の行方などを垣間見ることができる。これまで、いろんな角度から恋愛を書き続けてきた作者だが、この作品では、ユーモアも交えながら、人と人との距離をていねいに描き、新しい感覚の恋愛物語を紡ぎ出した。 |