昭和モダンの世界にタイムスリップ!
時は昭和初期、「事変」は続いているが本格的な戦争には至っていない。当時は、昭和モダンの文化が花開いていた。舞台は東京郊外の私鉄駅近くに建てられた、赤い三角屋根の小さな洋館。この家で女中奉公してきたタキは、晩年になって、平井家の人々と共に暮らした懐かしい日々を回想していく。世相の推移とともに、中産階級の品のいい生活が華やかに繰り広げられる。こうして語られる家族の物語は、しみじみと味わい深く、秘められた恋物語も切なく響いてくる。そして、「最終章」では、甥っ子が、タキの遺したノートとある漫画家の回顧展を手がかりに過去を振り返るうちに、驚くべき真実が明らかになる。読後、過ぎ去った時と登場人物たちの気持ちに思いをはせ、しばし呆然としてしまった。巧みな語り口、鮮やかなエンディング、さすが直木賞受賞作だ。 |