限りない寂しさから静かな安らぎが
ここに綴られているのは、夢のような現実、現実のような夢。ちょっといびつな、でも本当にありそうな出来事ばかり。そして、ページを閉じても、一つ一つの場面が鮮明な絵となって残る。苔料理とシャーレ、胡桃のような子どもの踝、生活改善課のRさんとトランペット、公民館の「あらすじ教室」、校閲者とのファックスのやりとり、盆栽フェスティバルと桂チャボ、子泣き相撲と赤ん坊、現代アートの祭典見学ツアー……。読み進んでいくうちに、これを書いている女性作家のことが気になってくる。彼女はいろんなものを失い、さらに失いつつあるようだ。とりわけ、「子ども」に関する喪失感が、痛いほど伝わってくる。失い続けることの寂しさ。でも、その底の方では、すべてを受け入れていこうとする静かな安らぎのようなものすら感じられる。不思議な小説だ。 |