耳を澄ますと彼らの声が聞こえてくる
地球の裏側のある村で、遺跡観光ツアーの参加者と添乗員八名が、ゲリラ組織に拉致されます。そして百日以上が過ぎ、軍と警察の特殊部隊がアジトを急襲した際に、人質と誘拐犯は全員死亡してしまいます。それから二年後、アジトに仕掛けられていた盗聴テープが公開されます。そこには、「何でもいいから一つ思い出を書いて、朗読し合おう」という朗読会の記録が残されていたのです。鉄粉まみれの鉄工所、欠けた英字ビスケット、運針、コンソメスープ作り、槍投げ……彼らが語る物語を読むと、限りなく懐かしい気持ちになります。それに加えて、温かさもじんわりと伝わっています。朗読は悲惨な現実の出来事を阻止することはできません。
でも、亡くなったひとりひとりが書き、語った物語は、彼らがそこに確かに生存していたことの証しとなるものでした。 |