超スピードのミリオンセラー
『心を整える。』(幻冬舎)が5ヶ月で100万部突破。無類の読書好きで知られるアスリート長谷部誠さんだからこその快挙ですね。
松田哲夫(まつだてつお)
1947年東京都生まれ。編集者。書評家。『中学生までに読んでおきたい日本文学』(あすなろ書房)が好評、続編を準備中。著書に『印刷に恋して』、『「本」に恋して』。
イチオシ!ガンとの凄絶な闘いを描ききった力作
吉村昭さんの死から五年、津村さんは、夫・吉村さんとガンとの凄絶な戦いの日々を描いた長編小説を発表しました。ガンになることを恐れ、万全の注意を怠らなかった吉村さんに、からめ手から舌ガンが攻め入り、とてつもない苦痛を与えます。その苦痛を乗り越えようとした矢先、背後から膵臓ガンが思いがけない勢いで襲いかかり、致命的なダメージを与えられてしまうのです。その時、自分の置かれた状況を冷静に判断した彼は、延命治療を拒否したのでした。それを受けとめる家族の複雑な思い。吉村さん自身の、そして家族一人一人の無念の思いをひしひしと感じつつ、あふれてくる涙を抑えることはできませんでした。これは、ひとつのいのちが尽きる時のきらめきを文字にとどめた、素晴らしい記念碑です。文学としても、追悼の文章としても最高の作品です。
家族小説の達人による感動作
小学六年生のマキと四年生のフミは、それぞれの父母が再婚して「姉妹」になりました。もっと仲良くなりたいのに、すれ違い、ぶつかることも……。それでも、優しい両親に見つめられながら、二人はしっかりと成長していきます。その姿は微笑ましく、ホロリとさせられます。
女の三十歳は人生の曲がり角?
子持ちで雑貨屋を始める夏美、年下の男と同棲中の学校職員かおり、独身のイラストレーター珠子。三人は仲の良い友だちです。それぞれの人生は充実しているけれど、変わらなければとも思っています。移りゆく季節を背景に、女性の揺らぐ心象風景を鮮やかに描いた力作。
結婚甘いかしょっぱいか?
第一話「甘い生活?」は、完璧に良妻を演じる相手が負担で帰宅恐怖症になった夫の話です。その他、順風満帆だと思われた結婚生活に兆したちょっとした亀裂を面白おかしく描いたコメディが全六話。他人だった相手と一緒に住むということは、なかなかの難問のようですね。
路上美術界・無名の巨匠たち
古い街並みを歩いていると、手描きのおもしろい看板絵に出会うことがあります。決して上手な絵ではないのですが、愛嬌を出そうとして色っぽくなってしまったり、真剣さを表現しようとして陰険な印象を与えたり、作者の意図を超えて訴えかけてくる路上美術の傑作集です。