3年目の「NHKラジオ深夜便」
毎月1回の「私のおすすめブックス」(第3日曜深夜)も3年目。明石勇アナとの対話と朗読でゆっくりと3冊ずつ紹介しています。
松田哲夫(まつだてつお)
1947年東京都生まれ。編集者。書評家。「週刊ポスト」で「松田哲夫の愉快痛快人名録 ニッポン元気印時代」を連載中です。著書に『印刷に恋して』、『「本」に恋して』。
イチオシ!古典の風格がある本格的ファンタジー
本格的ファンタジーの大作です。時は一九七七年、小学四年生の女の子さよとクラスメイトの男の子仄田くんが、図書館で出会った「七夜物語」に導かれて、七つの「夜の世界」を冒険します。そこには、大ネズミのグリクレル、ちびエンピツ、うつくしいこどもたちなど魅力的なキャラクターが次々に登場してきます。さよも仄田くんも親ひとり子ひとりの家庭だったり、学校ではいじめがあったり、そういう現実世界と「夜の世界」を往復しながらふたりは成長していくのでした。ところで、川上作品を読む楽しみの一つは食べ物の出てくる場面。この作品では、さくらんぼのクラフティやカステラなどスイーツの描写が豊富で嬉しい。酒井駒子さんの装画・挿絵が素晴らしく、祖父江慎さんの素敵な造本・装幀と相まって、すでに古典の風格がただよう本になりました。
言葉の魔術師が遺した名短編
井上さんが亡くなられて二年、未刊行作品がまた出ました。この作品は、日本語、方言、言葉遊びなど「言葉」を大きなテーマとした井上さんらしい物語集。とりわけ、ワープロの文字セットの中でカギ括弧が恋に落ちる「括弧の恋」がシュールでナンセンスで切ない名短編です。
快適なテンポのコメディ
山本周五郎賞受賞の前作『楽園のカンヴァス』とはまったく違うタイプの作品ですが、なんと気持ちのいい文章でしょう。快適なテンポにのって、この物語世界を縦横に走り抜けていく主人公「おかえり」。彼女の疾走感と一体となる心地よさは並大抵のものではありません。
「一筋縄ではいかない奥深さ
「今で言うと、寺院は大学だから、法師は教授であり、学問を学ぶと同時に人にものを教え、道を説いたりする人だった」という解説で「徒然草」が身近になりました。さらに、嵐山さんの体験を重ねて語ってくれるので、七百年前の言葉が活き活きと立ち上がってくるのでした。