第148回芥川賞・直木賞決定
芥川賞は75歳の黒田夏子さん、直木賞は57歳の安部龍太郎さんと23歳の朝井リョウさん、三世代そろい踏みという感じですね。
松田哲夫(まつだてつお)
1947年東京都生まれ。編集者。書評家。「週刊ポスト」で「松田哲夫の愉快痛快人名録 ニッポン元気印時代」を連載中です。著書に『印刷に恋して』、『「本」に恋して』。
イチオシ!ひっそりと生きた男の満ち足りた生涯
とても静かな物語なのですが、ぼくたちの胸には、たとえようもなく温かいものが満ちてきます。主人公は、幼稚園の小鳥小屋の掃除をしているので「小鳥の小父さん」と呼ばれています。小父さんのお兄さんは、小鳥のさえずりに似たポーポー語しか話せません。両親の死後、その言葉を理解できる小父さんとの静かだけど充実した暮らしが続きます。やがてお兄さんも亡くなり、ひとりになった小父さんは、図書館司書に淡い恋心を抱いたり、虫の鳴き声を愛でる老人と知り合ったり、怪しい人だと疑われたり、いろんなことを経験します。でも最後には、怪我をしたメジロを介抱し、その鳥と小鳥の歌を歌うという至福の時を送ることができるのでした。宇宙や大自然の普遍的なものと共鳴できる孤独は、自閉とは違う開かれたものだと感じさせてくれる素敵な物語です。
心理の奥底を抉る直木賞受賞作
就職活動中の学生たちのゆるい日常と揺れ動く心情を、軽快な文章で描いた傑作青春小説です。就活で取り繕った自分、親しい友だちに見せる自分、ネット上で本音を吐露する自分。いろんな自分をさらけ出しながら、「自分って何者?」という苦い問いを突きつけてきます。
正念場を迎えた戦国の男たち
戦国の武将たちは、勝つか負けるか、生きるか死ぬか、常に過酷な選択を迫られていました。名高い戦を、負けた側の人物の視点で眺めてみると、これまでの定説とはまた違うドラマが見えてくるのです。豪腕作家が本領を発揮し、直木賞の候補にもなった連作短編小説集です。
エッセイの醍醐味を堪能できる
『ジーノの家』で日本エッセイスト・クラブ賞、講談社エッセイ賞を受賞した内田さんの新作です。人びとの温もりや息遣いなどを活き活きと感じながら読み進むと、あっと驚く展開が待ち構えています。さらに、前作で登場した人物が再登場してくるという楽しみもあります。
魔法のないハリー・ポッター
シングルマザーで無一文になったJ・K・ローリングは、イギリスに帰り、鬱病にかかり、生活保護を受けながら「ハリー・ポッター」を執筆したそうです。人びとの愚行と破滅を描いた新作長編には、あの時代を忘れないという作者の万感の思いがこめられているようです。