講座「書評の書き方」を始めました
文学作品を深く味わいながら、自分の文章を磨いていこうという目的を掲げています。東京青山にあるNHK文化センターです。
松田哲夫(まつだてつお)
1947年東京都生まれ。編集者。書評家。「週刊ポスト」で「松田哲夫の愉快痛快人名録 ニッポン元気印時代」を連載中です。著書に『印刷に恋して』、『「本」に恋して』。
イチオシ!感情をそぎ落とした文章で記憶をすくい取る
普通に読んでいくと、なにが書かれているのかさっぱりわかりません。何回目かに、ゆっくり音読してみました。すると、パズルを解くように、しだいに理解できるようになったのです。そのうちに「天からふるものをしのぐどうぐ」とか「そとの夜にはあらしがはしゃいでいて」といった独特の言い回しも楽しめるようになりました。記述を綴り合わせていくと、書き手(語り手)は昭和十二年頃に生まれ、五歳のときに母親を亡くし、十年間、父親とふたりで巻き貝のような家に住み、十五歳のときにやってきた「家事専従者」にはじかれるように「家出」します。そして、母親から三十八年後、父親が死んでゆくまでの物語なのです。これは、時を経て風化し結晶化した記憶を、固有名詞や会話や生な感情をそぎ落とした文章ですくい取った、たぐいまれな言語作品です。
関西弁の壮大ホラ話ファンタジー
「どうして、本は増えるんだろう」、実は書架で「書物がナニして子供をこしらえる」ことがあるというのです。こうして生まれた「幻書」をめぐってハチャメチャな物語が展開されます。大阪の旧家深井家の愛書家與次郎とその家族を巻き込んだ空前絶後の冒険ファンタジー。
映画への愛が感じられる物語
余命わずかとなったぼくの前に、アロハを着た陽気な悪魔が現れて、なにか大事なものをこの世から消したら一日の命を与えるという……。物語の展開を楽しみながら、人生について考えさせられます。『夢をかなえるゾウ』が自己啓発小説お笑い版だとすると、これは映画版。
永遠のポップ&アヴァンギャルド
一昨年刊行されたマンガ集『うみべのまち』(太田出版)に続く、佐々木マキ・ワールドのガイドブック第二弾が出ました。「ポップ」や「アバンギャルド」は古びやすいものなのに、これらの作品はいつ見ても、できたてほやほやの新鮮さを保ち続けている奇蹟的な存在です。
楽しい話題満載の日本語本
日本語の本はたくさんありますが、著者が町を歩いて拾い集めたのは愉快なネタばかりです。さすが名コラムニストですね。そして、どんなに乱れようと、間違って使われようと平然としている、融通無碍な日本語の姿がありありと見えてくる、優れた言語論でもあるのです。